撤回ではなく、議論の場を
――上智大学での講義について教えてください。秋学期では広告の炎上をテーマに扱ったんですね。
4月から7年目に入りました。学生にとってデジタルメディアは、ものすごく身近で、動画に対してのリテラシーも相当高いはずです。非常に興味関心が高かったですね。取り上げたのは、サントリーの「頂」(編注:公式サイトによると、すでに製造終了。17年7月、女性が各地の方言で「お酒飲みながらしゃぶるのがうみゃあ」「コックゥ~ん!」などと発言するウェブ動画が「卑猥だ」と批判を浴び、削除された)、資生堂の「インテグレート」とかですね。あと私上海電通に5年いましたので、中国の事例も紹介したりしています。
女性でも「炎上したのは当然だ」という学生もいるし、「いやいやそこまでやる必要はないんじゃないの」って声もある。資生堂のインテグレート(編注:16年10月、25歳を迎えた女性主人公が、同性の友人から「今日からあんたは女の子じゃない」と言われたシーンが問題視され、テレビ放映を中止した)をテーマにしたときに「25歳からもう女の子じゃないって、どうなの?」って聞いたところ、上智の講義では25歳を超えている学生はほとんどいないので、「いやいや何が問題なの」「勇気もらって、あれはあれで明るくていい」って反応が大勢でした。僕は上智以外でも講演をするんですが、これを25歳以上の女性が揃っている所で流すと、「ひどい」「失礼」といった声が増えました。
――たしかに誰に聞くかによって、反応は変わってきますね。
アメリカでは「メイクカンバセーション」、つまり「議論しようよ」という呼びかけがあります。賛成意見もあれば、反対意見もあるだろうから、議論しませんかというものなのですが、それが日本にも根付いてくれないかなってすごく思っています。インテグレートの例なら「25歳以上はもう女の子じゃない」→「それダメでしょ」ってのじゃなくて、「みなさんどう思いますか」という議論の場を、資生堂が用意できると、それはすごく企業のためにも、商品のためにも、意見を言いたい人のためにもいいんじゃないかと思っています。
――具体的に、どのような事例がありますか?
国際女性デーに向けて、アメリカで行われた「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」をご存じですか。2017年のカンヌでグランプリ3部門をとっている作品です。ウォール・ストリートの雄牛像を「男性社会の象徴」として、その前に少女像を置いて女性の権利を訴える。ある投資ファンドがこの像を建てたんですが、議論が巻き起こった瞬間に、集まるお金が一気に増えたという。非常にわかりやすい広告効果だったんです。「あんなものを置いて何事か」とか「置くだけでなにを訴えるの」とか、当然ネガティブな意見もいっぱい集まったんですけど、「勇気付けられた」という声もあって、これこそ議論を交わす広告のひとつの姿だなと。