「考査部門」が防波堤になる
――事前の表現チェックは、広告会社やクライアントの内部で行われるんですか?
電通の場合、社内に表現チェックをする法務部がありますから、クライアントに当てる前に聞きます。私がいたときは、自主的に「ちょっとこれ危ないかな」と思った時とかですね。「ジェンダー」が疑問視される以前に、「差別」で広告業界が批判を受けたことがあるので、そちらにも神経を使っていました。
またメディア側でも、テレビ局とか新聞社、出版社は広告考査部門をお持ちなので、そこで「流して大丈夫なんだろうか」って考査は入ります。なので、炎上するのは両方の考査をすり抜けたもの、あるいはネット動画が増えていますね。
マスメディアは長い時間をかけて、嫌な経験もしながら成熟してきたので、広告考査部門として相当しっかりした人たちがいらっしゃる。ただ、デジタルメディアは、考査が割とゆるいというか、そこまでまだ気が回ってないこともあると思います。クライアント自身が自社サイトに載せるものは、さらに甘くなっている。地方自治体が地元の制作会社を使う場合も、どちらも考査部門を持っていないわけで、危ないんですよ。
――考査部門がない以外に、ジェンダー炎上が頻発する理由は?
広告なので、見てもらわなければいけないじゃないですか。私は広告の本質は、「本質をつきながら、意表をつく」だと思っているんですね。世の中の人を振り返らせたり、心を動かしたりしなきゃいけないとなった瞬間に、「下ネタへ行ってみようか」とか、そういう心理が働いてしまうのではないかと思います。
――わざと炎上させる、いわゆる「炎上商法」を仕掛けよう、といった提案があがることはあるのでしょうか。
私が知っている範囲ではないですね。炎上すると必ず傷つく。せっかく制作費かけて作ったものをオンエアできなくなると、クライアントは実害をこうむりますし、商品やブランドが毀損されるので、一つもいいことはないと思っているんですよね。なので、少なくとも私は炎上商法を認めるつもりはないです。持ちかけられたこともないし、クライアントも広告会社も、そこは考えるべきではない。
――では、意図していないにせよ炎上してしまった場合には、どう対応するのでしょうか。
まず、クレームや非難は、クライアントに行きますよね。それを電通が作ったかどうかは、誰もわからないわけですから。それでクライアントから広告会社に「どうしよう」と相談がきます。ただ、そこで広告会社とか制作者が謝るのは筋がちがうので、通常はクライアントがネット上に「申し訳ありませんでした」って出していますよね。