ジェンダー炎上は、「一部が騒いでいるだけ」と思っているあなたへ

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   後を絶たない「ジェンダー炎上」。

   一方で、「表現の自由が狭められてしまう」「一部の人が騒いでいるに過ぎず、さまつな問題だ」と、"批判の批判"もある。

   連載「ジェンダー炎上のトリセツ」の第3回は、ジェンダー問題に詳しい大妻女子大の田中東子教授(メディア文化論)に、ジェンダー炎上の「本質」を聞いた。

(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 谷本陵)

  • 田中東子教授
    田中東子教授
  • 田中東子教授

ジェンダー炎上、そもそも何が問題?

   ――ジェンダー炎上にはどんな種類がありますか

   女性を応援するつもりだったにもかかわらず炎上したケースと、女性をあからさまに商品化して炎上したケースに大きく分けられます。

   前者は、ユニ・チャームのおむつブランド「ムーニー」の例が挙げられます。子育てに取り組む母親を応援する狙いでCMを公開しましたが、「ワンオペ育児を礼賛している」と批判を集めました。※子育てに奮闘する女性を描いたウェブCM。ほかの家族が育児・家事に協力する姿はほとんど映されず、「その時間がいつか宝物になる」との言葉で結ばれた。

   後者は、鹿児島県志布志市の、うなぎを少女に擬人化した動画が代表的です。アダルトビデオまがいの広告で、非常に悪質だと考えます。※志布志市へのふるさと納税の返礼品である「養殖うなぎ」をPRする内容。うなぎに扮(ふん)した水着姿の少女が語り手の男性に向かい「養って」と話しかけ、そこからプールでの奇妙な生活が始まる。

   ――それぞれ何が問題なのでしょうか

   女性を商品化して炎上したケースでは、男性中心の視点で制作されている点が問題だと考えられます。自分たちがこれまで消費してきた性的なコンテンツの要素の組み合わせとして制作してしまっているにもかかわらず、その点に無意識であると。

   しかし、現在のようなSNS時代には、クリエイティブの送り手と受け手がオンライン上で出会ってしまいます。つまり男性主体で作られた広告と、それに嫌悪感を抱く女性たちの言説空間がダイレクトに繋がってしまい、これまでのように見逃されることのない時代になったことで「炎上」という結果に至っています。

   他方、女性を応援する意図で制作された広告は、伝えようとするメッセージ内容とその表現方法に乖離(かいり)が見られます。現代の女性の多くがすでに限界まで頑張っている人が多いのに、そこに手を差し伸べるのではなく、さらに頑張れだとか、孤独感を与えてしまうような広告が反感を買っているのでしょう。

   「ワンオペ育児」を助長するとして批判されたムーニーのCMもそうですが、映像の中で冒頭から終盤まで周囲の環境に変化が描かれていない。この点は、広告の意味を誤読させる決定的な理由になっています。つまり、主役の女性の気持ちは吐露されるものの、環境的な変化が一切描写されず、女性の大変さや生きづらさが個の問題としてしか表現されていない。たとえそれが現実なのだとしても、その商品を購入したら、自分たちのつらさはどう解決されるのか?が描かれていないことによって、「そんな現実は十分知っている。で?」といった不信感や不満を煽る要因となってしまいます。

問題理解には「知識」が必要

   ――ジェンダー炎上をめぐっては、意見が分かれる場合が少なくありません。朝日新聞が17年7月~8月に実施した調査(有効回答数:661)では、ジェンダー炎上について「ステレオタイプな表現を考え直すきっかけになり、よいことだ」(60.4%)との見方もあれば、「問題となっているのが、女性への差別表現に偏っていて不公平」(9.2%)、「表現の自由が狭められてしまう不安がある」(4.8%)、「一部の人が騒いでいるに過ぎず、さまつな問題だ」(2.9%)、「何が問題なのか理解できないケースが多い」(2.7%)ともあります。

   まず、問題とされるのが女性への差別表現に偏っているという意見についてですが、広告での男性と女性の登場割合をあわせて考える必要があるのではないでしょうか。日本では容姿端麗な女性と商品とを並べて消費欲を刺激しようとする広告がとても多く、女性の方が広告に登場しやすいと言えます。となれば、女性への差別表現が多く問題視されるのは当然だと考えられます。

   それに、男性への差別表現についても、不快に感じた人はもっと声を上げていけば良いのではないでしょうか。例えば、「ハゲ」「汚い」など外見に対する表現については気になっている人は少なくないはずです。

   次に、炎上による広告の取り下げが、表現の自由を狭めてしまうのではないかという意見ですが、これについて私は懐疑的です。不快な表現として、たとえば「スクール水着姿の女性」が挙げられたとしても、そうしたイメージの出てくる広告すべてが女性差別的かといったらそんなことはないですよね。例えば、プールの宣伝に水着姿の女性が表現されてもまったく問題はないと思います。表現の内容は常に文脈によって決定されるのですから、批判する側も単に「これこれの表現が良くないから取り締まろう」という主張をするだけでは、女性に対して差別的な表現の改善にはつながらないと思います。

   現時点では広告表現の炎上と企業との間には短絡的で不幸な関係しか生まれていませんが、今後は問題となった表現の、どこが問題であるのか、別の表現方法や別のストーリー構成の可能性はなかったのか、といった点についてきちんと議論をしていく必要があるのではないでしょうか。炎上は、表現の自由を守るということと、女性差別をしない広告を作るということの間に広大な空間を作り上げていくきっかけになると思っています。

   また、一部の人が騒いでいるだけの些末な問題だという意見には、問題が些末かどうかは、問題視する人の数の多寡によって決まるものなのか、と問い返したいですね。一部の人だけが問題視しているにすぎないとしても社会全体で問うべき重要な問題はあるし、そこから議論が広がっていくことは大切なことです。

   何が問題なのか理解できないという意見については、そのような意見を述べる人たちの知識の欠如と勉強不足を指摘したいです。全員がフェミニストになるべきとまでは言いませんが、ジェンダーをめぐる表現は無色透明の公平なものばかりではないという前提知識の有無によって、見える景色が違ってくるという点は認識していただきたいと考えています。

企業にできる炎上対策

   ――女性を描いた広告で、共感を集める方法は

   海外の例ですが、ガブリエルシャネルによる2018の年の香水のCMは好例です。蜘蛛の糸のような布に絡めとられた女性が走りだすと、徐々に糸がほどけていき、障害物を払いのけた先に、明るく開けた地平に到達するという映像でした。

   抽象度の高い映像ですが、シャネルの香水を身にまとうことで、閉塞した環境から解放感あふれる地平にたどり着けるという前向きなメッセージが感じられる映像の構成だったと思います。


   企業は、現代の女性の生き方や価値観に合わせた広告を作るべきですし、もしそれらの課題や理想をきちんとすくいとることができれば、共感を得ることができるでしょう。

   そのためには、企業はジェンダーに関して勉強し、正しいリサーチを行う必要があります。女性の生き様が多様化している現在の社会において、価値観は常に変化し続けています。そうした変化に対応した広告を作っていかないと、企業・ブランドイメージはどんどん悪くなってしまいます。企業はそのような現実の変化に追いつくためにも、自社の女性社員に意見を聞くなどして 多様な視点を持つことが重要です。
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