「令和の怪物」163キロ右腕・佐々木朗希投手(3年)の起用を巡って終わりなき論争が続いている。全国高校野球選手権岩手大会決勝で、佐々木を起用せずにチームが敗れたことが波紋を呼び、いまだ収束する気配はない。
チームを指揮した国保陽平監督(32)に対して賛否の声が上がるなか、なぜこのように選手を巻き込んでの論争が起こったのか。J-CASTニュース編集部は、日米の球団で職員として勤務した経験を持つ関係者の話をもとに検証した。
「未成年の判断に委ねる論調は危険です」
今回の「佐々木論争」の焦点となっているのが、国保監督が決勝戦に起用しなかった理由だろう。決勝戦前日の7月24日の準決勝(一関工戦)で佐々木は9回完封勝利をマークし、129球を投じている。国保監督は「故障を防ぐ」として翌日25日の起用を回避し、連投をさせない目的だったことを明確にしている。21日の4回戦(盛岡四戦)で194球を投げさせていることからみても、国保監督は球数よりも連投を避けたかったようだ。
日米の野球に精通する関係者は、国保監督の決断を「当然の判断」と断言し、「未成年の判断に委ねる論調は危険です」と警鐘を鳴らす。そもそもなぜ日本の高校野球では、このように投手の投球過多を巡る論議が毎年のように起こるのか。この関係者は「アメリカのように未成年の投手に対する投球制限のガイドラインがないからでしょう」と説明した。
米国では2014年にMLBが、医師などの専門家の意見を取り入れ、若年層に向けたガイドライン「ピッチ・スマート」を作成した。7歳から22歳までの若い投手を対象にしたもので、年齢に応じて1日の球数の上限が設定され、球数によって必要となる休養日を定めている。現在、米国のほぼすべての州で高校生の球数と休養日が規則化されており、このガイドラインに沿った形のものが多いという。
「周囲の期待に応えるよりも、選手の将来を守ることの方が大事」
「ピッチ・スマート」が設定するガイドラインを日本の高校3年生に照らし合わせてみると次のようなものになる。17歳から18歳カテゴリーにおける球数の上限は105球で、80球以下ならば3日間の休養を必要とし、81球以上投げた場合、投球間隔を4日間、空けるべきだとしている。ちなみに日本の中学3年生から高校1年生にあたる15歳から16歳カテゴリーでの上限は95球で、76球以上投げた場合、4日間の休養が必要となる。
日本の甲子園のような全国大会がなく、これに伴う地方予選がない米国ならではのガイドラインで、日本の高校に当てはめると現実的ではない。日本の高校野球が抱える過密日程などの事情を踏まえた上で、前出の関係者は「ガイドラインの設定は現場の意見だけではなく、医学的な見地からの議論が必要です。メジャーリーグのピッチ・スマートを参考にして日本独自の基準を設けるべきです」と持論を展開する。
米国の独立リーグでプレーした経験を持つ国保監督が「選手ファースト」の采配を振るった背景には、上記のような米国のルールが影響しているのかもしれない。前出の関係者は「周囲の期待に応えるよりも、選手の将来を守ることの方が大事です。どのような理由があるにせよ、有望な高校生の未来を大人のエゴで壊すことがあってはなりません」と話した。夏の甲子園は8月6日、聖地・甲子園球場で開幕を迎える。