不漁続きのサンマに国際的な漁獲枠規制の網がかぶせられることになった。
日本をはじめ中国、台湾など8カ国・地域がサンマの資源管理を話し合う「北太平洋漁業委員会(NPFC)」の年次会合(2019年7月16~18日)で、2020年から北太平洋全体で年55万6250トンを上限とする漁獲枠の導入が全会一致で決まったのだ。
日本の3年越しの提案がようやく実った。ただ、この数値は2018年の漁獲実績を上回る。甘々ではあっても、規制の枠組みをとにかく作ることに意義があるということのようだが、資源が簡単に回復しそうもなく、庶民の食卓に安くておいしいサンマが並びにくい状況は、まだ続きそうだ。
中国に「恩を売られた」?
サンマは夏から秋に北太平洋を西に向かい、日本近海のEEZ内に回ってくる。日本は小型船が中心で、EEZを主な漁場とし、漁獲量は2014年ごろまで年間20万トン以上あったが、ここ数年は急減。2015年から4年連続で10万トン前後の不漁になっている。これに対して、台湾や中国は北太平洋の公海で漁獲量を急拡大させ、2018年は台湾が17万トン、中国が9万トンまでになっている。水産庁は「サンマが日本近海に来る前に中国や台湾が先に取っている」ことが日本の不漁の一因とみている。
NPFCで日本は2017年から漁獲枠の導入を訴えてきたが、「資源減少の科学的根拠が不明」と主張する中国を中心に反対が根強く、枠を決められなかった。その潮目が変わったのが、この4月。NPFCの科学委員会で、2000年代前半に400万~500万トンだった北太平洋のサンマ資源量が2017年には130万トンに減少し、1980年以降で最低となったとして、「漁の継続には漁獲量を年間45万トン前後に抑える必要がある」と結論付けた。
日本は科学委の結論を受け、今回の会合で、2018年実績の約44万トン並みの「45万トン」を上限とする漁獲枠の設定を提案。事前には「中国の出方が読めない」(水産庁幹部)と、合意に懐疑的な見方も強かったが、最終的に中国も反対に固執せず、議論の結果、10万トン上積みして55万6250トンで決着した。中国が態度を軟化させた理由ははっきりしないが、さすがに資源の減少は否定できず、また、将来的に中国自身もサンマが獲れなくなって困る事態は回避したいとの「理性が働いたということだろう」(交渉関係者)。米中貿易戦争による国際的な駆け引きのなかで、日本に恩を売ろうとした側面を指摘する向きもある。
「乱獲に一定の歯止め」との見方もあるが...
55万6250トンの漁獲枠の内訳は、日本とロシアの排他的経済水域(EEZ)内が22万6250トン(2018年実績は約9万トン)、公海が33万トン(同約35万トン)。具体的な各国への割当量は2020年の会合で改めて議論するが、公海では当面、各国の漁獲量が前年を超えないようにするという。EEZ内は、日本とロシアで議論して決める。
この数字、日本はEEZ内で前年よりたくさん獲っていいと読め、一見するとお得のようだが、サンマが少なくなっている近年の実態を考えると、枠があってもそこまでは獲れない可能性が強い。一方、公海で操業する中台などは、現状追認。「現状より増やせないのだから、乱獲に一定の歯止めはかけられた」(水産庁)、「枠はあっても厳しいものでなく、実効性はあまり期待できない」(大手紙経済部デスク)と、評価は分かれるところだ。
いずれにせよ、今回の合意で資源がにわかに回復するとは考えにくく、安くておいしいサンマが潤沢に日本の食卓に並ぶ日を取り戻すためには、今後、漁獲枠を厳しくていけるかが、ポイントになる。