企業などの広告で、女性像・男性像の描かれ方が議論を呼び、取り下げや謝罪に追い込まれるケースが相次いでいる。
こうした炎上は、専門家やメディアの間では「ジェンダー炎上」と呼ばれる。多くはSNSで異を唱える投稿が拡散することで火が付き、それを報道機関が取り上げて燎原(りょうげん)の火のように広がる。
特集企画「ジェンダー炎上のトリセツ」の第2回は、2019年に騒動となった生活雑貨チェーン「ロフト」と女性誌「Domani(ドマーニ)」の広告に、いち早く「NO」を突きつけた2人の女性に話を聞いた。
(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 谷本陵)
海外では「規制」対象に
ジャーナリスト・治部れんげさんの著書『炎上しない企業情報発信』(2018年刊)によれば、ジェンダー炎上は「CMやコンテンツの中で描かれた女性像・男性像がインターネットなどで拡散することで、不特定多数の視聴者、読者の目に触れ、強く批判され、企業や団体のブランドイメージが傷つくこと」だという。
J-CASTニュースの調査では、ジェンダー炎上は2016年ごろから頻発している(「炎上の平成史 mixiからバカッター、ユーチューバーへ...『ネット』はどう変わったのか」より)。
背景の一つには、セクハラ被害を訴える「#MeToo」運動や「ポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的に公正な表現)」の広がりを機に、性差別への意識が高まった状況がある。
イギリスのASA(英国広告基準局)は19年6月から、性別に関する有害な固定観念を含む広告を禁止した。ASAのガイ・パーカー会長は、「社会の不平等を助長し、私たちはその影響を受けることが調査でわかった。簡単にいえば、広告表現の中には、やがて人々の可能性を狭めてしまう場合があるとわかった」と発表文で説明している。
世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」では15年から、性差別や偏見を打ち破る広告表現を表彰する「グラスライオン」部門が新設された。
そうした海外の動きに反するように、日本では2019年以降もジェンダー炎上が止まらない。西武・そごうが元日に出稿した広告は、女性の顔一面にパイが投げつけられた写真とともに、「わたしは、私。」などのコピーが書かれ、ツイッターで「なんで女性を応援する広告で女性の顔にパイぶつけるの?」「社会構造の問題を語ってんのに着地点が個人の姿勢というところがなんか......」と批判を集めた。一方で、「現在の女性への役割・価値観・勝手な期待をよく表している」と前向きに受け止める向きもあった。
同社はJ-CASTニュースの取材に、広告の意図を「さまざま制約の下でも、ご自分らしさを全うするために奮闘される女性や、それに共感するすべての方々を応援していきたいというメッセージを込めて発信させていただきました」と話していたが、狙いとは異なる伝わり方をしてしまった。
そのほか、制服メーカー大手「菅公学生服」が製作したポスターの「自分が『カワイイ』と思った短いスカートによって性犯罪を誘発してしまいます」や、女子ハンドボール世界選手権大会をPRする垂れ幕での「ハードプレイがお好きなあなたに」「手クニシャン、そろってます」といった表現が、物議を醸した。
菅公学生服のポスターは、2012年に製作したものがツイッターで掘り起こされた格好で、批判を受けて回収を決めた。
女子がギスギス...「ミソジニーなステレオタイプ」
こうした炎上は、多くの場合SNSなどで個人が声を上げることから始まる。ジェンダー炎上の"発火点"となった女性2人に、ロフト、ドマーニの広告の問題点を聞いた。
ロフトは1月下旬から、「女の子って楽しい」とのコンセプトで、バレンタインデーに合わせた広告キャンペーンを展開した。
メインビジュアルには体を寄せ合い仲睦まじい様子の女性5人のイラストが使われたが、コンセプトとは対照的に、ウェブCMでは5人が実は不仲であると示唆するシーンが多数登場する。女性たちの後ろ姿が映し出される場面では、髪や服をひっぱる描写があり、「女子だけって落ち着く~」「FOREVER FRIENDS」と違和感のあるコピーが踊る。
ネット上では賛否含めさまざまな声が寄せられ、ロフトは「ご不快な思いを持たれたお客様も少なくなく、配慮を欠いた結果になった」「ご迷惑をお掛けしたことを謹んでお詫び申し上げます」と公式サイトで謝罪し、広告の取り下げを発表した。
「『女子は怖い』『女子は友達顔していても心は真逆』というミソジニー(女性蔑視)なステレオタイプを露骨に、それも女性をメインターゲットにする商品でやった事ですね」
ロフトのツイッターアカウントに苦情のリプライ(返信)を送り、600リツイート(拡散)、2400「いいね」を集めた40代の女性は、問題点をこう振り返る。ツイッターのタイムラインで広告を知り、悪意的な女性の固定観念を含んでいると感じたため声を上げた。
謝罪文の内容も不満だったといい、不快にさせた部分を丁寧に説明すべきだったと指摘する。
「働く女は、結局中身、オスである」
ドマーニの広告は、最新号の宣伝のために東京メトロ・表参道駅に掲出された。
広告では、「ニッポンのワーキングマザーはかっこいい!」として、「働く女は、結局中身、オスである」「今さらモテても迷惑なだけ」「"ママに見えない"が最高のほめ言葉」「ちょっと不良なママでごめんね」「忙しくても、ママ感出してかない!」などと書き連ねている。
フリーランスライターのセニョーラカオリさん(30代女性)は、広告を批判するツイートを連投し、計約1800リツイートされて注目を集めた。
セニョーラさんは一連のコピーで、自身のつらい過去を思い出した。
「総合職の女性には経験がある人が多いと思うのですが、私自身も20代で『男性化』を求められ、それに応えようとして心身を壊した時期がありました。20代末にしてやっと『働く=男性化すること』ではない、と悟ったので、同誌のコピーは30代~40代の働く女性向けのものとして虚しいものだと感じました」
また、コピーは現代の価値観に合っていないと突き放す。「男性のように働くことや『男のようであること=かっこいい』とうたう姿勢に、1980年代のような古さと落胆を感じてしまいました。同紙のターゲットとなるワーキングマザーとしては、自分の役割やアイデンティティの一部を否定されているような矛盾を感じるのではないでしょうか」
ドマーニ編集部への提言を聞くと、「ママ向け雑誌の『VERY(ヴェリィ)』がワーキングマザー、専業主婦の両方を読者として上手に取り込んでいるので、今回の広告は前者の方をターゲットにしたものと思います。ですが差別化のためとはいえ、『オスである』という誰も夢を描けないコピーを出すべきではなかったと思います。ファッションに特化しているなど、ドマーニならではの売り出していきたい特徴があるなら、奇をてらわずにそれをシンプルに打ち出せばよかったのではないでしょうか」(セニョーラさん)