れいわ舩後氏も使う「意思伝達装置『伝の心』」 開発背景には「従業員のALS罹患」があった

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   「微力ながら患者様や支援されているご家族のお役に立てたかな」――。そう語るのは、意思伝達装置「伝の心(でんのしん)」の開発に携わった日立ケーイーシステムズ(千葉県習志野市)組込システム本部の松浦美紀彦さんだ。

   「伝の心」とは、2019年の参院選比例代表で当選した、「れいわ新選組」の舩後靖彦氏も使用するシステムだ。全身がほぼ動かなくなる、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のみならず「四肢麻痺で気管切開をされた方向けの装置」であると7月24日、松浦さんはJ-CASTニュースの取材に話した。

   どういうシステムなのか。どうして開発をしたのか。その背景を聞いた。

  • れいわ候補者発表会見時の舩後靖彦氏(2019年7月3日撮影)
    れいわ候補者発表会見時の舩後靖彦氏(2019年7月3日撮影)
  • 舩後氏使用の「伝の心」(2019年7月3日撮影)
    舩後氏使用の「伝の心」(2019年7月3日撮影)
  • れいわ候補者発表会見時の舩後靖彦氏(2019年7月3日撮影)
  • 舩後氏使用の「伝の心」(2019年7月3日撮影)

身体の一部をわずかに動かしスイッチを押し入力

   相手に言葉を伝える方法ってなんだろう。まず声。それに身振り手振りなど。パソコンをつかってキーボードでカタカタ......。スマホを使ってフリック入力。たくさんある。でもこれらには、「声帯」はもちろんのこと「手」も必要だ。これらが機能不全・喪失した人はどうすればいいのだろうか。

   松浦さんによると、「伝の心」への入力装置は、押しボタン式のスイッチやタッチセンサー、息でスイッチするブレススイッチ、舩後氏も使用する歯で噛むセンサーなど様々あるという。なるほど、パソコンの「キーボード」も入力装置だ。患者の容態に合わせたスイッチを用い、身体の一部をわずかに動かすだけで、文字を入力することができる。

「ALSの患者さんというのは進行形の神経難病ですので、筋肉が動く間は、(押しボタン式の)プッシュスイッチでまず、画面上を走るカーソルを止め、やりたい機能を選ぶというような操作方法となる」

   例えば文字を入力する場合は、50音を行ごとにカーソルが自動で動く(あ→か→さ...)ので、「あ行」で止める(スイッチを押す)と続いて、『あ→い→う→え→お』とカーソルが動き出す。自分が選びたい文字にカーソルが移ったら、ボタンを押して止めるという形だ。「顔の向きを変える」「耳を綿棒で掻く」など日常で使用する文章も数多く用意されている。2017年から18年に開発した機能には、コミュニケーションアプリ「LINE」の操作支援機能のほか、「視線入力スイッチ」のサポートもある。

   また日立中央研究所の技術を用い、なめらかな読み上げが可能な「音声合成機能」も搭載された。これは「気管切開して声を失う前に、患者様の音素データを作成して、患者様の特徴をとらえた合成音を再現する機能」だという。

「もともとの開発は、ALS患者様向けということでスタートした。1997年12月に初号機を出荷させていただいて、20年強やらせていただいている商品です」

名前の由来は「以心伝心」

   1990年6月、通産省(現経産省)より障害者に配慮した電子機器の早期実現をメーカーに促進するため「障害者等情報処理機器アクセシビリティ(身体に不自由のある人や高齢者にとって使いやすい設計がされている)指針」が出された。

   約2年後の92年4月、日立製作所に情報機器アクセシビリティ推進室が設置され、事業としてスタートした。

   その直後、日立の従業員がALSに罹患したという。

「開発当時に従業員がALSに罹ったことをきっかけで意思伝達装置をつくろうという形になった」

   開発にあたり、北里大学東病院と日本ALS協会の協力を得て、ALS患者向けの意思伝達装置を開発及び実証(臨床)実験を行い、97年12月、「伝の心」の販売を始めた。現在は8000を超える人に使用されているという。

   「伝の心」。名前の由来について松浦さんは、

「『以心伝心』ということから「伝(つたえる)」「心(こころ)」。読み方はちょっと特殊な読み方をさせていますけども」

と笑みをこぼした。

だれでも参加できる勉強会を開催

   ちなみに日立ケーイーシステムズでは年数回、誰でも参加可能な「伝の心」の勉強会(こころふれあい広場)を開催している。

「なかなか(伝の心)装置自体を使ったり、見る機会がございませんので、その機会を弊社が微力ながら公開させていただいている。(勉強会に参加し)把握していただければ知識を得ていただけるような場をつくらせていただいている」

と、メールやLINEの操作に加え、機能の使い方などを勉強できるという。

「実際に機械を触るだけでなく、患者やその家族が参加もされますので、意見などを取り入れ製品に生かしたりもしている」

   松浦さんは最後に

「一患者さんの生活の支援に協力することができた。微力ながら患者様や支援されているご家族のお役に立てたかな」

と述べた。

(J-CASTニュース編集部 井上祐亮)

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