「由々しき事態だと思う」。フリーアナウンサーの夏目三久さんが2019年7月24日朝放送の報道番組「あさチャン!」(TBS系)で、参議院議員選挙の10代の低投票率をめぐって、闇営業に端を発する吉本興業の問題に割く時間の長さに触れながら、「報道の在り方」に苦言を呈した。
連日報じられる吉本の問題。番組ではこの日も、所属タレントの加藤浩次さんが大﨑洋会長に体制変更を求め、退社覚悟で直談判したことを繰り返し報道した。夏目アナの発言はその中で飛び出した。
「私もこの後スタッフとしっかり話していきたい」
番組が始まって1時間半が経った朝7時すぎ、夏目アナは自らにも言い聞かせるように口を開いた。
「この問題については吉本興業内部、加藤さんと会社の問題ですから、私たちが何かを言及するというのは少しお門違いなような気がしますが」
それでも「スポーツ新聞で今朝、いろいろと言及されていましたので、そちらをご紹介したいと思います」として、スポーツ紙各紙の記事を取り上げながら解説。だがその後、ギャラ配分の低さなどについての所属芸人のコメントをまとめたVTR明け、夏目アナはもう一度自戒を込めるように発言した。
「そもそも検証すべきは吉本興業と反社会的勢力とのつながり、芸人さんと反社会的勢力とのつながりで、これについて検証がなされるべきだと思うのですが、私たちは今日、長い時間を使って芸人さんと吉本興業の労働環境についてお伝えしてきましたが、これについてさまざまなご意見があると思いますし、批判もあると思います」
一呼吸置き、わずかに首をかしげる仕草を見せると突如、22日に投開票された参院選を引き合いに出した。
「この吉本の問題をめぐっては、先週からお伝えしてきましたが、同時に参議院選挙が行われていて、参議院選挙の投票率が過去2番目に低かったということもありました。今日新たに分かったのは18~19歳の投票率が31%あまり。これは前回の参院選より14ポイントも低いということで、由々しき事態だと思うんですよね。日本の未来を背負う子どもたちが政治に関心を失っているというのは、大いに私たちの報道の仕方に問題があると思っていますし、私もこの後スタッフとしっかり話していきたいと思っています」
「報道の携わる人の小さな良心」
選挙権年齢が18歳に引き下げられてから初めての国政選挙となったのが16年参院選。総務省の発表によると、18~19歳の参院選投票率は16年が46.78%、19年(速報値)が31.33%だった。有権者全体の投票率も16年の54.70%から19年は48.80%に低下したが、下がり幅は10代のほうが大きい。
入江慎也さんが仲介役となって芸人らが反社会勢力に闇営業をしていた問題は収束の気配が見えず、参院選中も連日報道。多額のギャラを受け取っていた宮迫博之さんと田村亮さんが会見を開いて大きく注目されたのが投開票前日の20日で、投開票日の21日も関心は続いた。22日には吉本の岡本昭彦社長が5時間半にわたる会見を開いたことでやはり注目され、参院選の結果と並んで大々的に報道されている。
今回の参院選の投票率は全年齢で見ても1995年に次いで過去2番目の低さとなった。夏目アナの問題提起はツイッター上でも反響が相次ぎ、
「かなり覚悟を決めて話している」
「よく言った!支持します!」
「夏目アナ。私もそう思うよ!若者に選挙に興味を持てる報道を!」
「夏目三久アナ、吉本の騒動に選挙の話が隠れてるのを心苦しく思うこと、そっちのが大事だと思う気持ちを可能な範囲で一生懸命自分の言葉で話した印象。報道の携わる人の小さな良心。がんばって」
「夏目さんが静かに怒りながら『こんなことを長々放送している場合じゃない』旨のコメントしててうるっときてしまった......仕事に真摯なひとなんだなぁ...」
などといった声が寄せられている。一方で「勇気ある発言。よく言ったと思うけどその後も政治家のスキャンダル報じてたし、視聴率取ろうと煽るような内容ばかり。このままでは変わらんぜよ...」と冷静な反応もある。
参院選報道と吉本興業問題をめぐっては、平井卓也IT担当相(科学技術、クールジャパン、知的財産、宇宙政策)も言及したことを朝日新聞が23日に報じている。同日の閣議後会見で「(編注:選挙戦の)後半は京都(アニメーション)の火災や吉本興業に取られてしまって、(参院選の)テレビ報道が極端に少なかった」とし、自身の地元でも投票率が低かったことなどを引き合いに「投票率の低下に関しては、大変心配をしている」と述べたという。