ボクシングのWBC世界バンタム級1位ルイス・ネリ(24)=メキシコ=が2019年7月20日(日本時間21日)、米ラスベガスで元WBA同級スーパー王者フアン・カルロス・パヤノ(35)=ドミニカ共和国=と対戦し、9回KOで下した。序盤から距離を詰めての打ち合いの展開が続き、9回にネリの左ボディーでパヤノがキャンバスに大の字に倒れ込みそのままカウントアウト。これでネリはデビューから無傷の30連勝(22KO)とした。
世界のバンタム級戦線を占う意味でも注目された一戦は、両者、慎重な立ち上がりだった。距離を詰めながらネリ、パヤノともにガードを固め様子見の展開。時折、ネリが強引に左フックを放つもクリーンヒットに至らず、一進一退の攻防が続いた。中盤に入り、次第にネリがプレスを強め、ボディーを交えての攻撃に出る。そして9回、ネリが顔面への連打から左をボディーに叩き込むと、パヤノはたまらずダウン。パヤノは立ち上がることが出来ずにレフリーが試合終了を宣告した。
依然として燻ぶる薬物疑惑
今試合はWBCシルバーのタイトルがかけられ、ペイ・パー・ビュー(PPV)で全米に生中継された。世界王座に返り咲き、将来的なビッグマッチへ向けてネリにとって重要な一戦だった。井上尚弥(26)=大橋=が70秒で倒した相手をどう攻略するか。ボクシングファンのみならず、世界のボクシング関係者がネリの戦いに注目していた。結果は9回KO勝利だったが、その内容は「世界基準」に達しただろうか。井上に「挑戦」する資格を得ることが出来たのだろうか。
試合内容を問う以前の問題として、ボクシング関係者から指摘されるのが、いまだ拭えぬ薬物疑惑だ。今回の試合では、厳格な薬物検査を実施することで知られるボランティア・アンチ・ドーピング協会(VADA)による薬物検査は行われず、VADAの代わりにラスベガスを管轄するネバダ州アスレチック・コミッション(NSAC)が薬物検査を実施。この経緯によって、依然としてネリに対して「疑惑」の目が向けられている。
技術的なものに目を向けると、元スーパー王者をKOした事実は評価に値するだろう。その一方で井上と相対するには「物足りなさ」があった。まず、攻撃面では主武器とする左フックの粗さが目立ち、その精度は低いものだった。相変わらずストレートを打てず、いきなりの左フックは大振りのものばかり。サウスポー同士の一戦で大きなポイントとなる右ジャブのスピード、正確性を欠いたため、優位に進めながらも終盤決着となった。
井上とネリの決定的な実力差とは...
防御に関しては、大きな成長は見られなかった。序盤はガードを固めて慎重に試合を運んだが、回を重ねるうちにガードが下がり、カンを頼ってパンチをよける場面が見られた。また、ネリは攻撃を受けた際に真っすぐに下がるクセがある。ガードは上がっているが、真っすぐに下がることで、2発目3発目を被弾する可能性が高くなる。井上の多彩なコンビネーション、追い脚を考えれば、簡単に捕まってしまうだろう。
試合後のパヤノの腫れあがり傷ついた顔をみれば、ネリの強打は否定できない。KOを呼び込んだ左ボディーもまた強烈なものだった。だが、井上の対戦相手は試合後、そのほとんどがきれいな顔をしている。顔に傷を残すまでもなく、一撃で仕留めるからだ。これが井上とネリの現時点での決定的な「実力差」である。全米にアピールするはずだった舞台で、ネリは井上との差を露呈してしまった。
問題行動はともかく、30連勝で世界1位の力を証明したネリ。WBCの指名挑戦権を有していることからWBCタイトルに挑戦する日はそう遠くはないだろう。井上がバンタム級に踏みとどまる限り、将来的にネリとの対戦の可能性は否定出来ないが、進化し続ける「モンスター」を「問題児」が超えることは至難の業だろう。