野球界でいうなら元中日ドラゴンズの山本昌さん、サッカー界なら横浜FCの三浦知良(カズ)選手。そしてラグビー界においては、東芝ブレイブルーパスの大野均(ひとし)選手だろう。192センチ、105キロ、足のサイズは31センチという立派な体格の持ち主だ。
ポジションは、スクラム第1列(前3人)を後押しする第2列LO(ロック)。日本代表キャップ(出場回数)は歴代最多「98」。1978年生まれの41歳で現役を続けていて、ハードコンタクトの連続であるラグビーにおいては「鉄人」と呼ぶにふさわしい。しかし、大野選手のラグビー人生には、数字だけでは表せないほどの「とてつもない歴史」があった。
高校時代まで野球部...しかも補欠だった
大野選手は、福島県郡山市出身。小学校時代から野球少年で、高校まで続けたが、
「なかなかレギュラーに選ばれなくて、補欠でね。ポジションは主にレフト。最後はキャッチャーもやりました」
そんな大野選手は、地元の高校を出て、県内にあった日本大学工学部に入学。そこで、初めてラグビーというスポーツに出会った。
「大学でも野球をやろうと思っていたんですよ。でも、当時から体が大きかったので、ラグビー部から、しきりに勧誘されて。それで1回、練習を見に行ったら、チームの雰囲気がすごく良くて。やってみようかな...って」
さらに驚きなのが、いわゆる「本チャン」ではなく、工学部のラグビー部所属だったということだ。記者も長年、ラグビーを見てきたが「大学で本チャン→トップリーグ(TL)→日本代表」という選手は多くいるものの、大学で本チャンではなかった選手がTL、そして日本代表に入り、史上最多「98」キャップを取った...ということが信じられない。
「体が大きくて走れたっていうのもあって、学生時代に県選抜に選ばれて。それが東芝関係者の耳に入って『何だか、面白そうなヤツがいる』って...。それで、入社することになりました。まあ、運と縁です。でも、入社当時の先輩には『サークル上がり』扱いされましたけどね(笑)」
「メスを入れたことがない」体を作ったのは
そんな中で、TL優勝争い、日本選手権Vを狙う東芝ラグビー部の門を叩いた大野選手。以来、約20年。大きなケガなどはあったのだろうか?
「それが、今まで体にメスを入れたことがないんです」
これは、また驚きだ。日本代表クラスの選手ともなると、常人では考えられないほどのハードな当たりを繰り返す。それでもメゲない体を作り上げたことに、
「実家が農家なんです。それで、子供の頃から農作業を手伝っていたから、自然と、なのかもしれません。でも米とか野菜とか牛乳とかは毎日、取っていました。それもあるのかな。東芝に入ってからは、試合に出たい一心で、ひたすら練習しまくっていましたし...。膝の靭帯を伸ばして数週間、練習できなかったことはありましたけど」
そういった努力の積み重ねで、日本歴代最多キャップ「98」を数えるまでに至った。
ちなみに大野選手、5月6日に41歳の誕生日を迎えた。この時、東芝のチームメイトで代表合宿中だった後輩でもあるリーチ マイケル日本代表主将から、動画が送られてきたそうだ。
「『地獄の宮崎合宿』の最中、週に1日ぐらいオフがあるんですけど、その前日夜だったみたいで。リーチから『キンさん(大野選手の愛称)が、代表のルーマニア遠征で犬に噛まれた時の話』とか言って、みんなで爆笑している動画が送られてきて...。でも(自分をネタに)つかの間の休息をリラックスして過ごせている感じが、よく分かりました(笑)」
さすがは、心も体も「鉄人」。後輩の他愛ないジョークも、笑顔で受け流した。
そんな大野選手、実はお酒もとにかく強いのだそうだ。
関係者によると「いくら飲んでも、表情一つ変えない」という。日本代表前ヘッド・コーチのエディ・ジョーンズ氏からも「お前は(酒が強すぎるから、他選手とは別に)1人で飲みに行け!」と言われた伝説もあるそうだ。
その真偽について聞くと、
「まあ...好きですね。どれぐらい飲むのかって? 酔っぱらっているから分からないです(笑)」
果てしなく「規格外」な男である。
「僕が呼ばれたら」...日本代表はピンチ!?
そんな大野選手だが、今回の日本代表合宿には召集されなかった。その心の内を聞くと、
「もちろん選手である以上、(代表戦に)出たいという気持ちはあります。でも、現時点のJAPANに僕が呼ばれるとするなら、チームが危機的状況だ...っていうことでしょ」
あくまで「ケガ人もなく、現戦力で戦いきる」ことを強調した。
また、大野選手は2019年5月発刊の子供向けのラグビー解説書「はじめてのラグビー」(世界文化社、1500円+税)の監修を務めた。ブレイブルーパス府中ジュニアラグビークラブへの指導をカラー写真で解説しているほか、「ひとりじゃ何もできない」「相手の痛みを学べる」「ミスを取り返すチャンスがたくさんある」といった、大野選手の言葉も満載。子供にはもちろん、ラグビーをあまりご存じない親御さんにも分かりやすい書籍だ。
大学から本チャン外でラグビーを始め、試合や練習に耐えうる屈強な体を作り上げ、41歳になってもグラウンドに立ち、そして未来のラガーマンの礎となる大野選手。「規格外」という言葉では語りつくせないほどの存在である。
(J-CASTニュース編集部 山田大介)