公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2019年7月5日、18年度の運用実績が約2兆4000億円の黒字だったと発表した。これだけなら読み飛ばしてしまいそうなニュースではあるが、注目すべきは絶妙な発表のタイミングだ。5日は、「老後の資金に2000万円が必要」とした金融庁の報告書を契機に年金制度が争点の一つに浮上した第25回参議院選挙の公示日の翌日だったからだ。
金融の世界では、自らの運用が市場に影響を与えてしまうような巨額資金の運用主体を「クジラ」と比喩的に表現する。その中でも「世界一のクジラ」がGPIFだ。扱う運用資産は159兆円。日本銀行、共済年金、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険と合わせて「5頭のクジラ」とも呼ばれ、東京証券市場を買い支えているとも言われる。GPIFは厚生労働省所管の独立行政法人で、理事長の高橋則広氏は農林中央金庫の専務理事を務めた経験がある。
3年前、野党は「損失隠しだ」と批判
そのGPIFが注目されるのは、「世界一のクジラ」であるがため、資産運用の方針が金融市場へ与える影響が大きいからだ。特に安倍政権下の2014年、利回りの変動が比較的小さいとされる債券を中心にした運用を改め、株式の比率を高める方針を決めてから、注目度がさらに高くなった。民主党政権当時と比べて日経平均株価がどれだけ上昇したかを誇るのは安倍晋三首相の決めぜりふになっているほど、安倍政権は株価に注意を払っている。株式にシフトしたGPIFの運用方針変更に、そうした政権への配慮や忖度があっても不思議ではない。
こうした疑念が噴出したのが、前回の参議院選挙があった3年前だ。通常は7月上旬までに発表される前年度の運用実績が、2016年は参議院選挙が終わった後の7月29日に発表された。15年度の運用実績は、リーマン・ショック後では最悪となる約5兆3000億円の赤字。野党は「損失隠しだ」と批判したが、参議院選挙は終わり、秋の臨時国会までは日数が離れており、後の祭りだった。そして今年、黒字だった運用実績の公表は参議院選挙公示の翌日となり、選挙期間中の与党は、年金制度に対する有権者の不安を和らげる材料の一つとして大いに利用している。