歌手でタレントのmisonoさん(34)が「飲むだけで太らない商品」などとして健康食品のPR動画を自身のYouTubeチャンネルにアップしていたが、その内容をめぐって複数の弁護士がJ-CASTニュースの取材に、景品表示法などに抵触する可能性を指摘した。
この点について同商品の販売会社に見解を求めたところ、「該当の動画を取り下げて頂きました」と回答。動画は削除されるに至った。
「逆に太ってないのすごくない?」
「【ダイエット】misono愛用!飲むだけで太らない商品をご紹介します!」――misonoさんが2019年6月28日に公開したのは、こんなタイトルの動画だ。「KUROJIRU 黒汁」という健康食品を勧める内容で、説明欄には健康・美容商品の企画・開発を手がける「メディアハーツ」(現在の社名はファビウス=東京都渋谷区)の提供を受けていると明記している。
動画の長さは8分弱。misonoさんは「黒汁」について「海外セレブも使ってるということでめちゃくちゃ流行ったんです。炭を使ったダイエットサポート商品です」と紹介すると、次のように猛プッシュする(※【】内は動画テロップ。以下同)。
「【炭のいいところ デトックス効果が最強】34歳になったらどんどん落ちていく新陳代謝。なかなか痩せにくくなってきております。なので(炭は)新陳代謝を促進させて若返り効果が期待できるということで、本当にありがたいですね。3種類の炭が配合されており、さらに9種類の黒成分がダイエットと美容のサポートをしてくださいます」
misonoさんはこの「黒汁」を実際に1週間飲み続けたとして、横のアングルから同じポーズで撮ったビフォー・アフター写真を映す。体形に目立った変化はないように見えるが、それを見透かしたように「この姿が『めっちゃ痩せたねー』とかじゃないと思うんですよ」とし、こう語る。
「マネジャーをつけずに(仕事を)やってるんで、打合せ三昧なんですね。特にここ1週間は、ランチをして、夜ご飯もお客さんと食事会で、さらにその合間に会議、みたいな。misonoは基本的に断食か1日1食の生活なのが、ここ1週間はなぜかモロ被りで、まあ締めのご飯からデザートまでランチと夜ご飯ともに食べ続けてたんです。【食べる機会が多すぎ問題】
写真もそうですし、この(今の)misonoと見比べてもらっても、『いや変わってないやん!』って思うと思うんですけど、こんなにも1週間食べ続けて、逆に変わってないという結果が出たんですよ。【逆に太ってないのすごくない?】普通のスケジュールでいくと、もっと痩せてたんじゃないかなと思います」
しばらく「黒汁」を飲む生活を続けるというmisonoさん。「ブログやインスタグラムの写真をチェックしてみて、『あれ、痩せてきたんじゃない?』って思ったら、これ(黒汁)のおかげということで」として動画は終わる。
ファビウス公式サイトによると、「黒汁」は黒糖玄米味の健康サポート飲料。炭に加え、黒いダイエットサポート成分、乳酸菌や植物発酵物粉末を独自配合しており、1日1包のペースで飲む。価格は1箱30包入りで7450円(税別)とされている。
弁護士が指摘する問題点とは?
「黒汁」を飲めば「太らない」「もっと痩せる」「若返り効果が期待できる」などのアピールを繰り返すこの動画、内容に問題はないのか。J-CASTニュースが「弁護士法人・響」の古藤由佳弁護士に見解を聞くと、まず景品表示法(景表法)違反の可能性を指摘する。
「景表法の規制対象は事業者なので、個人の口コミに規制は及ばないようにも思えますが、misonoさんが知名度の高い芸能人であること、業者からの商品の提供を受けていることが明示されていることからは、事業者がmisonoさんの口コミを利用して広告活動を行っていることが明らかであり、景表法の規制が及びます。
そして、結論から言えば、今回の動画は景表法上の優良誤認表示(同法第5条第1号)に該当する可能性があります。この場合、メディアハーツ(ファビウス)に対して、本件商品に関する広告の差し止め等が命じられることが考えられます。
優良誤認表示の判断基準は一般消費者です。業界の慣行や表示を行う事業者の認識ではなく、あくまでも一般消費者の感覚を基準として、当該商品が実際の品質や内容よりも著しく優良であると認識されるような表示は規制の対象となります。
この点、動画のはじめの方でしきりに『炭』や『黒成分』に関する説明があります。これによって一般消費者としては、この『炭』や『成分』が他の製品よりもダイエットに効果的なのではないか、という印象を抱くかと思います。
そして、事業者が商品の表示を行う際には、あらかじめ『合理的な根拠』を示す必要性があると言われています(同法7条2項参照)が、本件動画では、不実証広告ガイドラインに照らしてその根拠が十分に示されたとは言えません」
「不実証広告ガイドライン」では、「合理的な根拠」の判断基準についての考慮要素を示している。それは(1)提出資料が客観的に実証された内容のものであること(2)表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること――の2つだ。
「これだけ炭の効果を押し出した本件動画においては、何らかの形で『炭の効果で太らなかった』という合理的な根拠を示す必要がありますが、動画では『炭にデトックス効果がある』等の点につき具体的な根拠は示されず、商品を使用したことによる効果についても『暴飲暴食したのに太らなかった』というレベルの根拠なので、到底表示の『合理的な根拠』が示されたとは言えず、規制の対象となる可能性があります」(古藤弁護士)
misonoさん自身の法的責任は
一方、misonoさんについては「この動画によってただちに法的責任に問われるという可能性は低いと思います」という。
「詐欺的な広告に写真付きで推薦文を掲載したタレントに損害賠償責任を認めた裁判例において、芸能人が広告に出演する際に、その広告主の事業内容・商品についていかなる調査義務を負うかを判断基準として『個別具体的に、当該芸能人の知名度、芸能人としての経歴、広告主の事業の種類、広告内容・程度などを総合して決められるべき』(大阪地判1987年3月30日)というものがあげられました。ただ、あくまでも裁判例であり、確定的な基準ではありません。
今回misonoさんが、少なくとも自分自身で1週間商品を実際に摂取していることを考慮してもmisonoさんが商品についての調査義務を怠ったという判断にはなりづらいと考えます」(古藤弁護士)
ただし古藤弁護士は、違反の可能性がある法規としてもう1つ、医薬品医療機器等法(薬機法)をあげる。
「今回の商品は、病気の治療や予防に役立つものとして紹介されているものではありませんが、動画中『新陳代謝を促進して若返り』という表現があります。この部分について、医薬品でないにもかかわらず『医薬品的な効果効能を標ぼうしている』として、薬機法に抵触する可能性があります。
条文上、薬機法の広告規制の名宛人は『何人も』となっているので、業者もそれに関与したmisonoさんも責任を問われる可能性はあります。ただmisonoさんに関しては、あくまでも『法律上、その可能性はゼロではない』というレベルでしょう。責任の有無は広告への関与の度合い等によって判断されると思いますが、調べた限り、健康食品の広告に出演した芸能人が薬機法上の責任を問われた、という裁判例はありませんでした」
「供給事業者がmisonoさんの動画内容にどれだけ関与していたか」
弁護士法人アディーレ法律事務所に見解を求めると、やはり「まず、動画のタイトルにある『飲むだけで太らない商品』という表示は、一般消費者にこの商品を飲むだけで、他に特段の手段を要することなく、肥満防止の効果を得られると誤認される表示ですので、景表法違反(優良誤認表示)に当たる可能性があります」と指摘。ただ、供給事業者(メディアハーツ=ファビウス)がmisonoさんの動画内容にどれだけ関与していたかが問題となるという。
「表示内容に積極的に供給事業者が関与して決定されたものであるか、供給事業者が表示内容を決定することができるかがポイントとなります。つまり、今回のmisonoさんの動画について、供給事業者が『こういう動画にしてほしい』『こういったコメントを必ず入れるように』と積極的に関与したり決定したりする権限があったのであれば、供給事業者が本件広告表示の表示主体として認められる可能性はあります」
また薬機法についても、動画の「炭は体内の毒素を一緒に出してくれる」「新陳代謝を促進して若返りの効果が期待できる」という表現が抵触する可能性があるとし、
「こうしたmisonoさんの動画中の表現は、ダイエットサポート商品と評する『黒汁』の商品紹介の一環としてなされたもので、『黒汁』を飲むことによる人体に対する作用によって、ダイエットに寄与(痩身効果、飲めば本来は太るものが太らない)するものとすることは医薬品的な効能効果(身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果)の標ぼうに当たる恐れがあります」
と話している。
企業、misonoさんに見解を聞くと
J-CASTニュースはメディアハーツ(ファビウス)に対し、複数の弁護士が違法の可能性を指摘していることを示した上で見解を聞いた。すると担当者は7月8日、
「ご指摘いただいた動画についてさっそく調査を行いましたところ、この動画は、弊社と取引のある代理店が作成したものと判明いたしました。早速、代理店に連絡し、該当の動画を取り下げて頂きました」
と回答。同日中に、misonoさんの今回の動画が削除されたのが確認できた。
misonoさんの動画内容の決定に同社がどれだけ関与していたか、についても質問したが、これに対する回答はなかった。担当者は「弊社といたしましては、ご指摘いただいたような動画につきましては、今後とも是正するよう、徹底していく所存です。弊社は、コンプライアンスを重視しておりますので、今後もアフィリエイターの記事の巡回を行い、また情報提供をいただいた場合には速やかに注意・警告を行うなど、広告表現について適切性を確保して参る所存です」としている。
今回の動画の説明欄に記載されていた動画プロモーション会社・ピクフィー(東京都渋谷区)と、misonoさん本人にも5日、質問状を送ったが、期日までに回答はなかった。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)