消費者金融で融資の相談をした人物をリスト化したと称するウェブサイト「貧困者データベース」が、インターネット上で物議を醸している。
現在は閉鎖されているが、専門家は「サイトが潰れても個人情報が悪用・拡散されやすい状態になっています」と警鐘を鳴らす。弁護士は「開設者は、名誉権やプライバシー権を侵害したとして賠償責任を負担する可能性が高いといえます」と指摘する。
すでに閲覧不能も...残る問題
貧困者データベースは、2019年6月21日までに開設された。サイトによれば、過去5年間に消費者金融で少額融資の相談をした人物を「貧困者」として定義し、情報源は不明だが「実名」「住所」「勤務先」「希望融資額」とされるものをさらしている。
7月6日時点では7815人が登録され、削除するには仮想通貨である「ビットコイン」1万円分を要求していた。
サイト公開後、ネットの掲示板やSNS上では批判が集まり、IT企業に勤める栗田創さんが海外にあるサーバーのホスティング元に異議を申し立て、現在は閲覧できない状態となっている。
栗田さんはJ-CASTニュースの取材に、主に個人情報とシステムの観点から問題があるという。
「勤務先が載っていたので、その情報が悪用されたり、勤務先での不利益を被ったりするリスクがあります。また、ウェブページ上で公開していたので、簡単に情報を自動収集でき、キャッシュなどの形で取られることで、サイトが潰れても個人情報が悪用・拡散されやすい状態になっています。すでにデータを取得した第三者や、ウェブにあふれるキャッシュといった問題は発生していると思います」
栗田さんは、「サイト自体は現在のホスティングサービスでは提供されなくなったとはいえ、ほかを使ってまた公開もできるかと思いますが、そうした行為に及ばないでほしいです」と訴える。
無関係のサイトをコピー...本来の持ち主は困惑
貧困者データベースで使われたドメインの連絡先(現在はドメイン登録代行会社に変更) を確認すると、同じ住所と電話番号の会社が見つかった。
同社に電話すると、「現在は使われておりません」との自動音声が流れた。入居するレンタルオフィスの管理会社に聞くと、3、4年前に退去しているという。
管理者を名乗る複数のツイッターアカウントにも取材を依頼したが、別の線を探ると、あるサイトが見つかった。このサイトの内容は貧困者データベースとは無関係のものだったが、一時的に、貧困者データベースのテストページが、サイト内で公開されていた。同サイトのプライバシーポリシー欄にも、「私たちのサイトアドレスは ●●(伏せ字は編集部、実際は貧困者データベースのURL)です」と一時的に書かれていた。
サイトに載っていた携帯電話にかけると男性につながり、「あのサイトはうちのサイトのコピーサイトです」と困惑気味に答えた。男性によれば、自社サイトを無断で複製され、7月10日に個人から情報提供があり発覚した。
同社のサイトをみると、たしかにデザインがほとんど同じだ。連絡先には同じ番号が記載されている。サイト制作会社と協議の上、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づくグーグルへの削除申請や、場合によっては内容証明の送付も検討しているという。
弁護士の見解は?
貧困者データベースは、法的に問題はあるのか。
IT分野に詳しい深澤諭史弁護士は、次のような見解を示す。
「本件は、氏名を掲載して個人を特定できる形式で、『貧困者』と題し、小口の借り入れを申し込んだという経済的に困窮しているとの印象を与えかねない事実を摘示しています。ついては、これは、名誉権を侵害する可能性が高いといえます」
「また、借り入れの事実、住所氏名、勤務先は、公にされたくない事実ですので、プライバシーを侵害したともいえます。したがって、開設者は、名誉権やプライバシー権を侵害したとして賠償責任を負担する可能性が高いといえます」
「名誉権侵害については、名誉毀損罪として犯罪とされていますので、開設者は名誉毀損罪に問われる可能性があります」
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)