参院選が盛り上がらない。消費増税という与野党の対立点があるにもかかわらず、マスコミは年金で煽っているが、いまいちだ。
消費増税が盛り上がらないのは、新聞が軽減税率を受けるために、新聞が消費増税の中身を報じられないからだ。
明確な争点設定ができていない選挙
軽減税率の対象が、「コメ、ミソ、ショウユ」まではわかるが、「新聞」がそれに付け加わるのはおかしいだろう。
また、年金の支給額などを政争の具にしてはいけない。年金は複雑な仕組みのようだが、2019年6月13日付け本コラムで示したように、保険でありシンプルな数学問題だ。年金で老後の生活のすべてがみられるはずはないのは、一般国民ならみんな分かっている。あえて保険で説明すると、すべてのドライバーが加入しなければいけない自賠責では不十分で、一部の人は任意保険に加入するのと同じだ。つまり強制加入の年金は、保険料を上げられないので、ミニマムの保障しかできないので、それ以上の生活を望む人は別に貯蓄せざるを得ないのだ。年金だけの生活では満足できない人もおり、その人たちの貯蓄は2000万円というわけだ。また、自営で定年がなければ、長く働くことは可能であり、その場合には貯蓄もほとんど不要である。
こうした内政問題では、マスコミでは明確な争点設定ができていないが、格好の外交・安全保障上の問題が降ってきた。米軍の統合参謀本部議長が、ホルムズ海峡などで船舶の安全を確保する有志連合を結成する考えを示し、日本政府にも協力を打診したと報じられている。
筆者は、安倍首相が先日イランに訪問し、最高主導者との会談中に起こった日本関連タンカーへの襲撃事件は、日本への警告という認識だった。アメリカはイランの仕業と言うが、少なくともアメリカ軍は、日本関連のタンカーが襲撃される光景を上空から見ていたわけで、もし米国関連船なら、警告をしていたはずだ。この意味で、アメリカ軍も見過ごしていたので、イランの仕業としてもアメリカも傍観していたという意味で、日本への警告とみられる。
ホルムズ海峡は、日本のエネルギーの生命線である。トランプ大統領は、日本も自国でシーレーンを守ったらどうかという。今回のアメリカの打診も、その延長線だろう。
法改正か、特措法か
これが国際政治のリアルな社会だ。2015年9月に成立した安保法制では、ホルムズ海峡での機雷掃海が、集団的自衛権の例として出ていた。その審議では、そのための要件はかなり厳格であり、今のような事態では要件を満たしていないといわれるだろう。
であれば、法改正をすべきかどうか。現行法では、自衛隊法による海上警備行動もありえる。しかし、これでは、日本に関係のある船舶は守れるが、外国の船は守れない。海賊対処法では、外国船舶も護衛できるが、海上警備行動と同様な行動制約がある。こうした現行法制上の問題を考えると、特別措置法でも対応というのもありえる。
とかく、日本は良くも悪くも面倒臭い国なのだ。ただし、米イランの問題は深刻だ。イランの状態をあえていえば、1990年代なかごろの北朝鮮の核問題に似ている。米朝で開戦一歩手前までいったが、結果として米朝枠組み合意ができた。しかし、その後の歴史をみれば、北朝鮮が抜け駆けして、今では北朝鮮は事実上核保有国になった。
このままでいけば、イランも同じ道をたどるかもしれない。北朝鮮の時には、アメリカは具体的な北朝鮮攻撃も考えていたが、今のイランにも同じようにアメリカは考えている可能性もある。となると、そのための一歩が、今回の有志連合への打診という形であるとすれば、これは国政選挙にもっともふさわしいリトマス紙になる。各政党の見解を聞きたいモノだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「安倍政権『徹底査定』」(悟空出版)、「『バカ』を一撃で倒すニッポンの大正解」(ビジネス社)など。