音楽教室への著作権料徴収を巡る裁判で、日本音楽著作権協会(JASRAC)が身分を偽って職員を音楽教室に通わせていたと報じられ、ネット上でその手法に疑問も相次いでいる。
この職員は、裁判で証人出廷するといい、JASRACは、「判例では正当と判断されている」とJ-CASTニュースの取材に説明した。
「主婦」だと偽った職員は、証人として出廷へ
職員を音楽教室に通わせていたことは、朝日新聞が2019年7月7日付ウェブ版記事でJASRACの「潜入調査」として報じた。
それによると、この職員は17年6月から19年2月までの2年近く、東京・銀座のヤマハ音楽教室のバイオリン上級者向けコースに通った。入会に際しては、「主婦」だとウソを付いていたという。月に数回レッスンを受け、バイオリンの発表会にも参加していた。
朝日が入手したJASRAC 側の陳述書では、職員は、講師の模範演奏を聴いて、「まるで演奏会の会場にいるような雰囲気を体感しました」と証言したとあった。裁判では、JASRAC は、著作権法が定める「公衆に聞かせる目的の演奏」だと主張している。
職員は、7月9日の裁判で、JASRAC 側の証人として出廷する予定だ。
この報道を受けて、ツイッター上などでは、様々な意見が書き込まれている。
JASRACの手法を疑問視する声は多く、「姑息で共感できない」「身分を偽って潜入したのが証拠になるの?」「潜入調査なんてやっても良いのかね」「講師さん、傷ついたろうな」といった書き込みがあった。音楽関係者らからは、覆面調査でも証拠能力はあるのではとの指摘もあったものの、同様に厳しい意見が多い。
JASRAC手法の合法性について、著作権に詳しい深澤諭史弁護士は7月8日、J-CASTニュースの取材に次のような見方を示した。
「詐欺罪などの可能性低いが、失うことの方が多い」
「ウソを付くことは、それだけでは犯罪にならないです。音楽教室も、『JASRACは来るな』とは明示していません。ですから、詐欺罪などに問われる可能性は、ゼロではないものの低いと思います」
裁判で証拠採用されるかについては、「民事では、盗んできたものなどでない限り、どんな証拠を出しても自由とされていますので、証拠になる可能性は高いでしょう」と深澤弁護士はみる。ただ、「2年間の調査で信用性はありますが、『演奏会みたいだ』というのは決定的なものではなく、証拠としての価値は低いと言えます」と話した。
さらに、深澤弁護士は、こう指摘する。
「教えた先生をだましたことで、先生の気持ちが踏みにじられています。音楽の啓蒙をしている公益の仕事なのに、著作権料徴収に向けての説得力がなくなるでしょう。アーティストの権利も守られないことになり、失うことの方が多いと思います」
JASRACが裁判で勝つか負けるかについては、「コメントするのは難しい」とした。その一方で、「勝ったとしても、最新の曲が習えないなどして教室の生徒が少なくなり、音楽文化も縮小すると思います。JASRACの立場はあると思いますが、著作権利用料は低くするなど落とし所を考えた方がよいでしょうね」と話した。
JASRACの広報部は7月8日、手法への疑問などについて、「証人尋問の前ですので、お答えするのは難しいです」と取材に答えた。
ただ、一般論だとしたうえで、こう説明した。
「実態調査は、確かにあります。カラオケ店などで権利侵害があったときに、自らそう申告することはないので、証拠を集めないといけません。職員だと名乗れば、調査が成立しなくなってしまいます。過去には、調査が違法ではないかと訴えられましたが、高裁で確定した判例では正当と判断されています」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)