岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 米朝首脳会談めぐる評価の亀裂

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   「米国内で失笑されている」、「米国では散々だ」―――。2019年6月30日、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、板門店で面会した第3回米朝会談。

   米国内での評価をこのように報道した記事が日本では目立つが、一般のアメリカ人は、会談をどのように受け止めたのだろうか。

  • 首脳会談はどう受け止められたか(写真は労働新聞ウェブサイトから)
    首脳会談はどう受け止められたか(写真は労働新聞ウェブサイトから)
  • 首脳会談はどう受け止められたか(写真は労働新聞ウェブサイトから)

「素晴らしいとしか...」「独裁者と和平」

   共和党寄りのFOXニュースだけでなく、民主党寄りのNBCやCNNなどマスコミ各社がこぞって、「トランプ氏が北朝鮮に足を踏み入れる歴史的な瞬間」として速報を流した。

   米中西部のウィスコンシン州オークレア在住のデイヴ(50代)は、トランプ氏を支持し続けてきた。「トランプ叩きが好きなCNNやNBCは、ネガティブな報道をすると思ったよ。認めたくはないだろうが、トランプを毛嫌いしているやつらも、今回の彼の業績は素晴らしいとしか言いようがないだろうね」と興奮を抑えられない様子だ。

「『トランプは金正恩を刺激して、戦争をふっかけようとしている』と、少し前までリベラル派は騒ぎ立てていたでしょう」と苦笑するのは、ニューヨーク市に住むアン(40代)だ。「トランプが和平を結ぶ努力をしているのを見て、『なんなの、これじゃ、和平に反対しなきゃならないわ』と地団駄を踏んでいるに違いないわ」。

   こうした人たちを、カリフォルニア州フレズノ在住のダイアン(60代)は、「単純」だと斬り捨てる。「ただのphoto opportunity(記念写真撮影の機会)にすぎず、内容が何もない。今もトランプを支持して、手放しで喜んでいるのは、バカ中のバカだわ」と語気を荒げる。

   激しい怒りを感じている人も少なくない。「自国民の飢餓を拡大させ、邪魔者を殺害してきた独裁者。そんなヒットラーのような人間に、自分たちの大統領が媚びているのを目にするのは耐えられない。独裁者と和平を結ぶのは不可能だ。会談では、非核の非の字も出なかった。トランプは弱腰と見られ、非核化で妥協せざるを得なくなるのではないか」。

「歴史的瞬間であったことは間違いない」

   だったら、どうすればよいのか。

「私だって和平を望んでいる。戦争をしたいわけではない。そのためには経済制裁を加え続けるべき」とダイアンは言う。

   フロリダ州フォートローダデイル在住のジョナサン(20代)は、トランプ氏に投票しなかったことを後悔していると話す。

「トランプを人として好きになれなかった。でもこれまで、どんな政治家も今回のようなことは実現できなかった。従来のやり方に従わない、破天荒なトランプだからこそ、だ。非核化への道のりは、険しく長いことはわかっている。でもこれが、歴史的瞬間であったことは間違いない。この成果だけでも、次の大統領選で彼に一票を投じる価値があると思っている」

   今回の会談実現について、トランプ氏のツイッターはきっかけになったが、事前に準備されていた、との報道もある。が、いずれにしても、従来のルートを無視して、独自の外交に出たかに見えるトランプ氏。そして、満面の笑顔で親しげに振る舞う両首脳。

   北朝鮮が拘束していたアメリカ人3人が、昨年5月、トランプ政権下で無事に解放された。が、その一年前には、昏睡状態で解放された米大学生が、帰国後すぐに死亡するという痛ましい事件もあっただけに、アメリカ人の心境も複雑だ。

   ニューヨークに住む知り合いの韓国系アメリカ人女性(90代)は、今回の米朝首脳の面談を支持し、言葉少なにつぶやいた。

「動かなければ、何も起きない。今できるのは、和平を願って、ただ見守ることだけ」

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール おかだ・みつよ 作家・エッセイスト 東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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