企業が株主に対して1年間を総括し、今後の方向性を諮る場となる定時株主総会。「カリスマ経営者」だった会長(当時)の電撃的な逮捕、筆頭株主である海外勢による度重なる統合圧力、本業の不振......。この1年間、これほど紆余曲折を経た企業は他にないだろう。日産自動車の株主総会が2019年6月25日、本社がある横浜市で開かれた。
開催時間は3時間20分あまりに及び、個人株主からは厳しい質問も飛んだが、会社側の提案はすべて承認された。だが、もっとも激しいバトルは株主総会が始まる前に起きていた。前会長のカルロス・ゴーン被告が起こしたとされる数々の不正を二度と起こさないように、社外取締役の権限を強めて、経営の透明化を図ろうとする日産側の組織再編案に対して、筆頭株主であるフランス自動車大手ルノーが難色を示し、株主総会で棄権も辞さない意向を示したのだ。
委員会メンバーをめぐる攻防
ルノー側の主張は、組織再編案には賛成するが、組織再編によって発足する3つの委員会(指名、報酬、監査)のメンバーに入るルノー側の取締役を1人ではなく2人にせよ、というもの。何とも露骨な要求だが、ルノー側にも事情がある。日産が経営危機に陥っていた1999年に救済した経緯があり、ルノーは日産の株式の43%を保有する。一方、日産はルノーの株式の15%を保有するものの、これには議決権がない。資本の論理に基づくと、ルノーは日産が培った技術や販路をもっと活用したいところだが、会社の規模や自動車販売台数は日産がルノーを上回るという「ねじれ」があり、これまでも関係強化を目指すルノーの要求を日産は拒んできた。
この組織再編案は、企業にとって経営の根本に関わる重要な案件であるため、株主総会では議決権をもつ株主の過半数を定足数として、その3分の2以上の賛成によって成立する特別決議として扱われる。ルノーは株主総会で反対しないまでも、棄権すれば、他の全株主が賛成しても3分の2以上の賛成を得られず、組織再編は実現しない。
実際、ルノーは「棄権」を辞さない姿勢を見せて日産をけん制した。こうなると日産が取り得る選択肢は限られてくる。日産は当初、4月に日産の取締役に就任したルノーのスナール会長を指名委員会のメンバーに加えることを想定していたが、これに加えて新たに日産の取締役に就任するルノーのボロレ最高経営責任者(CEO)を監査委員会に加えることを渋々ルノーに伝え、ルノーは議案に賛成に回った。
経営統合問題の行方
こうした株主と会社側の対立は一般的には水面下で繰り広げられることが多かったが、今回はルノーが日産に送った書簡を欧州メディアが報道して発覚した。こうしてルノーは日産に対して陰に陽に圧力を加えた結果、今回はルノーの意向で押し切ることに成功したのだ。
日産の株主総会で西川広人社長は、ルノー側と経営の将来像を協議する場を今後設けて「資本関係も含めて突っ込んで議論していく」と説明したうえで、「経営統合が良いとは思っていない」とも述べ、両社の自主性を重要視する意向を強調した。だが、今回の委員会人事で、日産の経営におけるルノーの影響力が増すのは確実で、日産はさらに厳しい立場に置かれることになりそうだ。