このところ、立て続けに「催眠術」を題材にしたバラエティー番組が放送され、話題になっている。あたかも自我を失ったかのような様子に、視聴者たちは一喜一憂するが、そもそも催眠術とは何なのだろう。J-CASTニュースは、心理学の専門家に話を聞いてみた。
「仲直り」企画は失敗
2019年7月3日に放送された「水曜日のダウンタウン」(TBS系)では、漫才コンビ「おぼん・こぼん」に催眠術を仕掛けた。
2月27日放送の「解散ドッキリ」で大反響を呼んだ「おぼん・こぼん」のおぼんさん(70)とこぼんさん(70)の不仲ぶり。「8年間私語なし」という衝撃的な2人の関係をめぐって大きな話題となったが、3日の放送ではその後継企画として、「おぼん・こぼんでも催眠術さえあれば仲直りできる説」を実施。たとえ仲が悪くても、催眠術を使えば関係の修復が可能なのではないかとのテーマで実験を行った。
その結果は残念ながら失敗。事前通告なしで対面した2人だったが、おぼんさんは対面するなり催眠術が切れた様子で「気分悪いわ」と一言。一方のこぼんさんは、対面直後は笑顔だったものの、十数秒後には口元が引きつり始め、やはり、嫌悪感を示すに至った。この結果を見た視聴者からは、「ダメだったかー」といった企画の失敗を嘆く声が続々と上がった。
残念ながら、今回の水ダウでは催眠術をもってしても2人の関係を修復することはできず、関係修復を願う視聴者の思いは粉々に砕かれてしまった。
催眠術にかかっても自我は失われない
催眠術といえば、ひとたびその術中にはまれば、あたかも自我がなくなったかのような振る舞いを見せる被験者の姿が印象的であるため、淡い期待を抱いた視聴者は多かったことだろう。
ただ、経営コンサルタントで心理学博士の鈴木丈織氏によると、催眠術の被験者の意識状態については、決して自我が失われた状態ではなく、「意識レベルが低下することで、抵抗感を感じづらくなっている状況」になっているのだという。
「催眠術にかかっても、『意識がなくなる』『意識ごと乗っ取られる』という状態にはなりません。今回の水ダウを見ると、『目の前の人を好きになる』という暗示をかけることで『譲歩したくない』という抵抗感を薄れさせて関係修復のきっかけを作ろうとしたように見受けられます」
残念ながら、「譲歩への抵抗感」を引き下げることができなかったとみられる今回の水ダウ。その一方で、水ダウの3日前に放送された「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)では、催眠術の被験者の抵抗感が完全に消滅してしまったかのようなシーンがあった。
抵抗感がなくなると、何でもできてしまう!?
この日の「イッテQ」では、番組で「出川ガールズ」を務めるモデルの谷まりあさん(23)の催眠術へのかかりぶりが強烈だったと視聴者の間で大きな話題に。さまざまな催眠術にかかり続けた谷さんだったが、中でも視聴者の度肝を抜いたのが、出演者の出川哲朗さん(55)の腰に「額をくっつけたくなる」という催眠術だ。
谷さんは「ヤダヤダヤダヤダ!」「私だってやりたくないですよ! お尻にくっつくなんて!」と嫌がりつつも、出川さんの腰にフラフラと引き寄せられ、背中を向ける出川さんの腰に強力に密着。出川さんが歩き始めても額は離れることなく、さながらケンタウロスのような状態で、ロケ場所となった公園内を徘徊した。このシーンについても、鈴木氏の意見を聞いてみた。
「谷さんのケースは、やはり抵抗感はあったのでしょうが、出川さんの背中なら許せる範囲だったのでしょう。『許容範囲の抵抗感を飛び越えさせた』と言えるわけで、番組としては大成功だった思います。なので、極端な言い方になりますが、あの場で『裸になりなさい!』と命令されたら、谷さんは従わなかったでしょう」
また、ショーとして紹介されることが多い催眠術だが、これについても、
「催眠は意識状態の1つですが、催眠状態に入ることで、より良い気付き、認識、行動を目指すための心理療法を行うことができます。普段固執している考えを柔軟化させることで、よりよく生きることが可能になるのです」
と解説してくれた。
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)