作家と観客のすれ違い
鴻上さんはこのような反応を受けて一部のツイートを削除し、
「作り手にとっては別な意味で大問題なのです。前のめりのアナウンスを聞くたびに、熱中するなと言われているようで、心、潰れるのです。制作意欲に冷水をぶっかけられるような。困ったジレンマです」
「僕の考える『前のめり』は『前かがみ』のことで、迷惑を受けているという方のは『椅子に浅くかけた前伸び上がり』、ということみたいですね」
などと投稿した。
鴻上さんは身体を前に傾けるだけでなく、舞台に集中するポジティブな意味でも「前のめり」という言葉を使ったのだが、演劇ファンにとって「前のめりの観劇」は、後方席の視界を妨げる行為と認識されている。鴻上さんとファンのすれ違いが、批判に発展したようである。
試しに広辞苑第7版で調べてみると、「前のめり」は「前方に倒れるように傾くこと」、「前かがみ」は「体を前へ曲げてかがむこと」となっている。ニュアンスの違いはあるが、どちらも身体を背もたれから離す行為だ。いずれにせよ深く腰掛けて観劇することがマナーである演劇界では顰蹙を買う行為で、1階席でも2階席以上でも、前傾姿勢での観劇をされて迷惑だったという体験談を、鴻上さんのツイートをきっかけに、多くの演劇ファンがSNSに投稿していた。
鴻上さんも不作法な観劇を容認する意図ではなく、「思わず身を乗り出してしまうくらい魅力的な舞台を作る」というポジティブな意図を込めてのツイートだったが、
「演劇関係者がこういう主張をしてしまうのはまずい」
と、落胆するファンが少なからずいたようだ。