2019年の経済政策の全体像を示す「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)。
例年、夏から本格化する来年度予算編成に向けた議論の「土台」として、この時期に決まるが、目前に参院選を控えた今回は、与党の公約と一体になった選挙向けの政策アピールの道具立ての一つになったこのため、社会保障分野の負担増など国民の耳に痛い議論は先送りされた感も。新聞の報道も「踏み込み不足」など厳しい指摘が目立つ。
「就職氷河期」支援も打ち出すが...
6月21日に閣議決定したのは、「骨太の方針」(経済財政諮問会議)と「成長戦略実行計画」(未来投資会議)、「まち・ひと・しごと創生基本方針」(まち・ひと・しごと創生会議)、「規制改革実施計画」(規制改革推進会議)の4文書。「骨太の計画と成長戦略」と一般に表現される。
主な内容は、まず、10月に消費税率を8%から10%に引き上げることを確認し、経済状況を踏まえて2020年度予算で「適切な規模の臨時・特別の措置を講ずる」とも明記。米中摩擦などで海外経済の先行き不透明感の強まりを意識して、「機動的なマクロ経済政策をちゅうちょなく実行する」として、追加の経済対策にも含みを持たせた。
中期的に内需を下支えするため、人手不足対策や所得向上策もいくつか盛り込んだ。30歳代半ばから40歳代半ばの「就職氷河期」の世代を3年間で集中的に支援し、ひきこもりで就労支援が必要な人への対応も含め、正規雇用者を30万人増やすとした。最低賃金は目標としている全国平均1000円を「より早期に」実現することを打ち出した。
少子高齢化が加速するなかでの社会保障については「全世代型」と銘打って、70歳までの就業機会確保の法整備の方針を示した。ただ、労働人口が減っていく中で人手不足対策の意味合いも強い。パートなど短時間労働者への年金・医療の保険適用拡大、働く高齢者の年金を減額する「在職老齢年金」の見直しなども、同様の狙いを含むものだ。
当初案から消えた「私的年金の活用推進」
このほか、「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業の存在感が増していることを受け、デジタル市場活性化に向けた司令塔となる省庁横断の専門家組織「デジタル市場競争本部(仮称)」の創設を打ち出した。IT企業などの競争環境を監視するとともに、巨大IT企業が取引先に不利な取引条件を強いる事態を防ぐため、「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)」を2020年の通常国会に提出するほか、日本勢の出遅れ挽回を図るべく、技術革新などを後押しするための基本方針を策定する方針も示している。
また、高齢運転者の事故防止に向け、限定免許制度創設を検討することや、地域経済対策として独占禁止法の規制を10年限定で緩和し、地方銀行や乗り合いバス会社の統合を促進することも盛り込んだ。
一方、社会保障費の給付減や負担増といった国民に「痛み」を伴う政策については具体的に明示せず、2018年末にまとめた工程表に沿って、2020年度の骨太方針で「給付と負担のあり方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめる」と記した。また、当初案に盛り込んでいた「私的年金の活用促進」に関する記述も、「2000万円問題」を連想させることから、削除された。
「負担の論議から、いつまで逃げ続けるのか」
今回の骨太の方針などの発表を受け、全国紙は一斉に社説(産経は「主張」)で取り上げたが、参院選を意識したのではないかなどと、概して厳しい評価だ。
朝日(6月24日)は「消費増税の10月実施を控え、その先を見据えた議論を始めるための節目の基本方針だ」と位置付けたうえで、「示されたメニューは比較的異論が少ないものばかり。難題に向き合おうという政権の意気込みは感じられない。これでは『骨太』の名に値しない」とバッサリ。具体的施策についても、就職氷河期世代支援や最賃1000円について「大事なのは、それをどう実現するのかだ。参院選向けのスローガンでは困る」、社会保障にも「給付を抑えるための施策と、必要な財源を確保するための税や社会保険料の引き上げのバランスを、どうとるのか。負担の論議から、いつまで逃げ続けるのか」と厳しい指摘が並ぶ。
日経(22日)も「7月の参院選を意識したのか、就職氷河期世代への支援や最低賃金上げなど有権者に聞こえのよい政策が並んだ。消費税率10%引き上げ後の社会保障・財政改革など国民の負担増につながる厳しい改革には踏み込まなかった」と手厳しい。社会保障について「持続性確保には、歳出抑制や負担増などの議論は避けられない。政府は国民に事実を正直に説明し政策を訴えるべきだ」と厳しく求める。
毎日(22日)は「最大のテーマは長寿化の進展に伴う人生100年時代への対応」と位置づけ、「明るい面ばかりでない。寿命が延びれば、それに応じて、老後生活への不安も膨らむだけに、その対応策も必須だ。にもかかわらず、そうした不安に向き合おうとしていない。高齢者にも働いてもらって、年金や医療など社会保障の支え手を広げる利点が強調されているだけだ」と書く。
産経も「必要な改革を断行するのが本来」
日経と毎日は骨太の方針の形骸化に焦点を当て、日経が「何よりも問題なのは『経済財政運営と改革』という主題がぼやけてきていることだ」として、「(基礎的財政収支=PBの)黒字化目標への道筋は描いていない。さらに高齢化がピークに達し、医療・介護など社会保障費が増大する40年度までについては議論すら進んでいない」と批判すれば、毎日も小泉政権時代と比較し、「第2次安倍政権になって、ダイナミズムが失われている。......『経済成長すれば財政問題も解決する』との理屈で、社会保障費の抑制など痛みを伴う改革を先送りしてきた。......骨太の方針は形骸化が進むばかりだ」と、厳しい書き方だ。
日ごろ、安倍政権支持が目立つ読売と産経は、今回は論調が割れた。
産経(22日)は、「総じていえば、負担増などの痛みを伴う改革について具体的な言及はほとんどない。むしろ、世論受けしそうな政策ばかりを並べた印象である。これでは『骨太』というより『骨細』ではないか」と、厳しい言葉を投げつけ、「第2次安倍政権発足後、7度目の骨太と成長戦略である。過去の成長戦略152項目のうち約4割は進捗が遅れている。これらの妥当性を含めて、不断の検証が必要である」と、ズバリ指摘。「参院選前だから踏み込まないのであれば問題だ。必要な改革を断行するのが本来の骨太方針のはずだ。原点に立ち返り、年金や介護などの改革に正面から取り組んでほしい」と、日経や毎日と同様、原点回帰を訴える。
異彩放つ読売の「激励」
これに対し、読売(23日)は「激励調」だ。「日本が背負う難題の解決に向け、政策の大胆な重点化が必要だ」「『政府4計画』は重複が多く、役割分担も不明確だ。政策の優先順位を整理し直すべきである」など一般的に注文はするが、「昨年の成長戦略で打ち出した152施策も、目標達成のメドが立ったのは3分の1にとどまる。原因を究明し、スピード感を持って政策を実行してもらいたい」、「地方銀行と路線バス会社の経営統合や共同経営を促す。......再編で経営基盤強化を目指す方向性は妥当だろう」、「雇用改革にも力点を置く。......企業や労働者の意識改革には、時間がかかろう。粘り強い取り組みが求められる」といった具合で、産経を含む各紙とのトーンの違いが目を引く。