メディア側はこれからどうすれば?
今回の取材のきっかけとなったのは、LGBT法連合会が2019年3月に発表した「LGBT報道ガイドライン」だ。現場で働く記者の協力を得て作成されたもので、当事者を取材する報道機関側に留意してほしい点、また逆に、取材を受ける側に対しても気を付けるべきポイントが解説されている。
――「LGBT報道ガイドライン」は、街頭デモに参加した当事者の方が、その様子を名前・写真も含めて報じられ、大きなショックを受けた、という出来事をきっかけに作成されたとお聞きしています。一方ガイドラインの中にも触れられていますが、報道機関にとっては、デモのような公の場で話したことが記事になることは「当然」という習慣も根強くある。なかなか難しさを感じます。
神谷 先日も国会での集会の際、「撮影禁止ゾーン」を設けていたのですが、実際にはそこにいた撮影を望まない参加者の後ろ姿、あるいは横顔などが写り込んでしまう例がありました。
報道とは何か、情報とはどういうものなのか、なかなか学校教育で教わることもありません。当事者の方にそこを認知・整理してもらうとともに、記者の皆さんにも、当事者の皆さんが置かれている状況を知ってほしい。報道における「パブリックインタレスト(公共の利益)」も承知していますが、諸外国でもこうしたガイドラインも作られています。こうした状況を踏まえ、記者の皆さんとの対話を通じて作らせていただきました。よりよい関係、距離感を持って、報道と向き合っていければと考えています。
――反響はいかがですか。
神谷 ある地方紙さんに呼ばれて、地元のLGBT支援団体とともに社内研修会を行わせていただきました。ほかの地方紙からも、ガイドラインを取り寄せたい、という依頼もありました。ぜひ、メディアの皆様にも研修などへの関心を持っていただければと思います。全国の賛同団体の側にも配布しており、引き続き認識を高めるために努力をしたいと思っております。
ガイドライン作成を通じて、私たちも勉強になりました。「第1版」とうたっているので、第2版の予定は?という話もありますが......今後議論が深まっていけば、考えていきたいですね。
――ガイドラインは、主に当事者への直接取材、対面取材を念頭に置いた内容となっています。今回のご指摘をいただいたような論評記事について、ご意見がありましたらお聞かせください。
神谷 今まで申し上げたことに近いとは思いますが、いわゆるエンタメや文化の論評であっても、その解説の仕方の影響をメディアの皆さんには、ぜひ考えてほしいです。
実際に報じられた当事者だけでなく、それを見たほかの当事者、あるいは学校関係者や周囲の人が、そうした記事をどう受け取ってどう行動するか。それは、最近のバラエティー番組などにもある論点だと思います。
芸術性、真実性ということも大切にしながら、その影響ということも十二分に考えていただければと思います。
下平 新聞などでは、記者が適切な文章を書いていても、記事をチェックするデスクの方が知識がないと、たとえば「LGBT男性」といった題名(見出し)がつくことがあります。これでは、レズビアンでゲイでバイセクシャルでトランスジェンダーの男性、という存在しえない状態になってしまい、当事者からすると首をかしげることになってしまう。メディアによっては、デスクも含め記事に関わる方にこのガイドラインを読んでもらったり、研修を受けたりしている報道機関もあるようです。記事をチェックする過程で、誰かが問題に気付けるような環境を作ることも大切なんじゃないかと思います。
――「きのう何食べた?」のような作品は今後ますます増えていくと思います。そうした作品を取り上げる上で、アドバイスはありますか。
神谷 これまでお話しした、このガイドラインにも書いたような基礎的なことを踏まえていただければ、理解が深まることにはつながると思います。このクールでも「きのう何食べた?」以外でも、「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」(NHK)のような、同性愛者の実態を表す良い作品が放送されました。当事者の方からもさまざまな反応が出ています。いろんな記事を書いていただければと思いますが、ネット上の反応も見ておられるJ-CASTさんなら、こうした声も見ていただければ。またなかなか時間もないとは思いますが、原作へのリスペクトも持って記事化していただきたいと思います。