越後最古の寺として知られる新潟県燕市内の国上寺(こくじょうじ)に、ゆかりの偉人5人を半裸で描くなどした「イケメン官能絵巻」が設置され、論議になっている。
地元では、その内容に一部で異論も出ているが、芸術関係者からは、理解を示す声が多いようだ。
日本画家・木村了子さんが手がける
露天風呂から裸の上半身を見せる上杉謙信は、優男風のイケメンに描かれている。妖艶な装束で笛を奏でているのは、源義経だ。
国上寺の絵巻は、本堂の外壁をぐるりと囲むようにあり、だれでも自由に回廊を歩いて鑑賞することができる。
すべて日本画家の木村了子さん作で、2019年4月19日に一般公開された。
この日のプレスリリースによると、壁画公開は、「若者や女性のお寺離れに歯止めをかけるため」だといい、「セクシーなイケメン偉人達が交わり女性本能を刺激。これまでのお寺にはない独特な世界観を感じて頂けます」とうたっている。
このお寺は、18年10月に「ネット炎上」を供養する取り組みを同様な理由で始めて、話題になったことがある。
今回の絵巻については、地元では、いくつかのトラブルが出ている。
設置されている本堂は、燕市の文化財に指定されているが、寺側は、原状変更の許可を市教委に申請していなかった。市教委の社会教育課にJ-CASTニュースが6月27日に聞いたところでは、絵巻が地元紙などで報じられた後、担当者が訪問するなどしたうえで、許可申請と壁画を取り外す原状回復の措置を求める行政指導を14日に文書で行った。
寺側からは、許可申請が27日に郵送で届いたが、許可するかどうかは、7月12日から始まる文化財調査審議会で是非を判断してもらって決めるとしている。
「本来のあるべき道から外れている」「目くじら立てなくったっていい」
また、市教委の学校教育課では、文化財が原状とは変わってしまっていることや児童・生徒の見学に不適切な内容を含んでいることを理由に、校外学習や遠足の際に本堂への訪問を控えるように各学校に通知した。
もし審議会後に市教委が原状変更を許可した場合でも、通知通りにしたままにするかどうかについては、何とも言えないとしている。
イケメン官能絵巻については、6月21日の6月定例市議会でも取り上げられ、一般質問に立った市議からは、その設置や内容について異議が出た。また、地元で賛否が分かれていることが一部メディアで25日に報じられて、ネット上でも様々な意見が出ている。
異論としては、「本来のあるべき道から外れている」「子供の目に触れる場所はまずいんじゃないか」「郷土ゆかりの先人をあの様に書かれることへの好悪はあって当然」といった声が上がった。
一方で、「目くじら立てなくったっていいんじゃない?」「子供に見せようがどうってことないと思う」「お寺が客寄せに攻めの姿勢を見せるのは良いことだ」などと擁護する声も多い。
芸術関係者からは、ツイッター上で次々にエールが送られている。新潟市生まれの美術家、会田誠さんは、「文化は今も新しく生まれ生きている。寺だってそのチャレンジをしていい」と理解を示し、人気漫画家の瀧波ユカリさんは、「うちの小学生の娘を連れて国上寺に行きたいな。あんなに美しくて面白い日本画をお寺で楽しめる機会ってそうそうない」と書いた。
市教委に申請遅れは、「失念していました」
原状変更の許可を申請していなかったことについて、国上寺は6月27日、次のように担当者が説明した。
「市の条例で変更申請が決められていることについて、すっかり失念していました。行政指導を受けた後、今週に入って申請書を提出しており、市の当局と対立しているわけではありません」
イケメン官能絵巻に異論も出ていることについては、こう話した。
「賛否両論はあると思いますが、若い人たちが仏教から離れて行っていますので、普通の壁画では目につかないと考えて設置しました。お寺と関わりが深い偉人たちを敬う中で描いたもので、貶めるようなことは考えていないです。幸い、訪れた方々には高評価をいただいており、ありがたいことだと思っています」
絵巻の設置後は、女性などが鑑賞する姿も目立つといい、それまでの倍から3倍に参拝客が増えているそうだ。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)