柔らかい日差しを浴びて、天然芝の緑がまぶしく輝く。広大なピッチの上に、集まった大勢の人の笑顔があふれた。2019年4月20日、福島県楢葉町のスポーツ施設「Jヴィレッジ」がグランドオープンした。
サッカーのトレーニング施設として、日本代表の合宿をはじめ多くのチームが利用してきたJヴィレッジ。東日本大震災後、8年を経て再開した今、施設運営にかかわる人たちはサッカーに加えて多角的な活用を見据えている。
JヴィレッジでAKB48 やDA PUMPが歌った!
この日の「Jヴィレッジグランドオープンフェス!~To the future~」は、天然芝ピッチ2面の復旧が完了し、全面再開を祝うイベント。記念式典では、高円宮妃久子さまがお言葉を述べられ、福島県の内堀雅雄知事や日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長らがあいさつした。
「サッカーの聖地」Jヴィレッジだけに、集まった子どもたちを対象に天然芝の上でのサッカー教室が開かれたり、女子サッカー・なでしこリーグの公式戦が行われたりと、そこかしこで歓声があがった。
その一方で、少し趣が異なる催しも。特設ステージでは、アイドルグループ「AKB48」や、ダンス&ボーカルグループ「DA PUMP」が代表曲「U.S.A.」ほかエネルギッシュなパフォーマンスで会場を盛りあげた。
敷地内の別の場所では、福島県産の日本酒や食材を味わえるコーナーが設けられ、訪れた人たちの関心を集めた。
天然芝ピッチ8面、人工芝ピッチ2面、全天候型練習場、雨天練習場――広大な練習環境が目を引く「新生」Jヴィレッジでは、ホテルや研修・会議設備、コンベンションホール、パーティールームを完備。中でもホテルは、ぜいたくな間取りでリゾート感覚を楽しめる「サウスウィング」、ビジネスパーソン向けの「アネックス」、合宿やイベント参加者など、団体利用に最適な「ノースウィング」と、3種類のゲストルームがあり、用途を拡充している。
2018年7月に一部再開して以降は、サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」の合宿をはじめサッカー関連の利用が多い一方で、2018年9月2日に行われた「ふくしまビッグスクラム2018」では、ラグビーやパラスポーツの体験コーナーが設けられた。
2019年1月26日には、Jヴィレッジ初となる陸連公認のマラソン大会が開催され、県内外から2000人の参加者が集まった。残念ながら大会は積雪で中止となったものの、参加者に向け全天候型練習場を使ったランニング教室を開催するなど、他のスポーツでも活用の事例が増えてきた。
バスケットボールやバレーボールなどでは、いわき市や富岡町のスポーツ施設と連携した取り組みを進めており、いまや周辺地域を巻き込んだ一大スポーツ拠点の中心的な役割を担っている。
サッカー以外の利用で増えているのが、ラグビー。国内の最高峰「トップリーグ」に所属するチームのうち、クボタスピアーズが今年4月22日~27日、NTTコミュニケーションズシャイニングアークスが5月7日~11日、それぞれ合宿を行った。合宿最終日の11日には、NTTシャイニングアークスの選手によるラグビークリニックを実施。県内の高校生や中学生100人が参加しトップ選手たちから技を学んだ。
7月6日にはトップリーグの公式戦を予定。さらに今年9月にはラグビーワールドカップが日本で開かれるが、出場国のアルゼンチンがJヴィレッジでのキャンプを予定している。
ほかにも、7人制の競技でフライングディスクをキャッチして得点を競うアルティメットの全日本選手権大会、日本代表の合宿、ラクロスの東北地区大学新人戦と、広がりを見せてきている。
サッカーのJヴィレッジから、さまざまなスポーツのJヴィレッジへ。第2幕は、そんな変貌していく姿がみられそうだ。
敷地の広さとドローンは「絶対に相性がいいなと考えていました」
スポーツ以外の試みも始まっている。その一つのカギが、小型無人機ドローンだ。「J-VILLAGE福島ドローンスクール」を、2018年10月と19年3月にそれぞれ開校。12月1日~2日には、「東日本ドローンサミット」が開催された。同スクールは、ドローンのパイロット養成のため操縦の高い技術と安全にかかわる知識を学ぶための教室で、一般社団法人日本UAS産業振興協議会認定のスクールでもある。
「敷地の広さがJヴィレッジの強みですから、活用できるようになったらドローンは絶対に相性がいいなと考えていました」
そう話すのは、Jヴィレッジ経営企画部副部長の山内正人氏。実際に「東日本ドローンサミット」では、天井高約20メートルの全天候型練習場を使ってドローン操縦体験を、屋外のピッチではドローンによる空撮講座や農薬散布デモを実施した。
加えてコンベンションホールでは、講演やパネルディスカッションを開催。屋内外での幅広いプログラムは高評価を得た。
1999年4月からJヴィレッジに勤務していた山内氏は、震災と福島第一原子力発電所の事故で一時離れたものの、2012年8月に戻ってきた。転機は13年9月、東京五輪・パラリンピックの開催決定だ。こののち、「Jヴィレッジを、どのように利活用していくかを自分の中でも考えるようになった」と振り返る。
実は震災前から、サッカー以外の施設の活用法は視野に入れていた。ドローンに着目したのは、先進技術に関心を寄せる山内氏が「世の中を変える」と期待したからだ。
「日本の社会を変えるようなものをJヴィレッジから発信できたら、これは面白いなとの発想がありました。私の中では、それがドローンだったのです」
昨年好評だったドローンスクールやドローンサミットの勢いを駆って、今年4月15日~16日には、水中ドローンのスクールも開校した。Jヴィレッジという施設の魅力が、ドローンの業界関係者の間で浸透しつつある。山内さんも「どんどん広げていきたい」と手応えを感じている。
「週末だけでなく、平日もこの地域に足を運んでもらうにはどうすればよいか」
「地域全体を盛り上げていきたい」
Jヴィレッジ関係者の知恵を絞る日々は続く。山内氏は、「地域の再生、福島の安全安心、地域の魅力。これらを発信するためにJヴィレッジは何ができるか、何をすべきなのかを考えていくことが根底にあると思います」と語った。