電力政策の「難しさ」露わに 廃止へ向かう「固定価格買い取り制度(FIT)」の7年

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   経済産業省が、大規模事業者について廃止の方針を打ち出した「固定価格買い取り制度(FIT)」。太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーの事業者がつくった電気を、あらかじめ決めた価格で買い取るシステムだ。

   買い取り費用の増加で消費者の負担がもはや限界に来ているという認識で、経産省の有識者会議で検討し、早ければ2020年の通常国会に関連法の改正案を提出する。

   本格導入から7年。その行く末は、「電力政策」の難しさを感じさせる。

  • 太陽光発電の今後は?
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当たった、否「当たりすぎた」狙い

   FITは2011年の東日本大震災を受け、再生エネ拡大のために2012年に導入された。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスのいずれかで発電した電気を、電力会社が購入する制度だが、あらかじめ決められた高い価格で一定期間の全量買い取りを約束するのがポイント。発電業者が安心して事業をできるようにして、再生エネを一気に普及させようというものだ。

   この狙いは当たった。否、当たり過ぎたともいえる。従来からある大規模水力発電を含む再生エネ発電の全電力に占める比率は、2012年の約10%から順調に増え、加速し始めた2014年の12.1%、2015年13.8%、2016年14.7%、2017年16.4%、2018年17.4%と右肩上がりだ。特に参入が容易な太陽光に事業者が集中し、他の再生エネがほぼ横ばいの中で、2014年の1.9%から2018年は6.5%に急増。FITの認定容量全体の約8割を占める。

   事業用太陽光発電(10~500キロワット)の買い取り価格は、2012年度に40円/キロワットという高額に設定されてスタート。その後、さすがに高いということで段階的に引き下げられ、2019年度は14円。再生エネ全体の買い取り総額は3.6兆円、費用は「賦課金」として家庭や企業など全ての契約者の電気料金に上乗せして回収され、その総額は2.4兆円に達する。標準家庭が2019年度負担する見通しの賦課金は年間9204円で、2012年度の686円と比べ13倍以上にはね上がっている。負担は限界に近づいているというのは、決して大げさではない。

   そこで経産省が考えているのは、太陽光でも再生エネの買い取り総額の7割を占める「事業用太陽光」の優遇を廃止すること。といっても、すでに認定を受けて事業をしている業者については、約束の期間は買い取りを続ける。また、大規模風力もFITの対象外にするが、個人の家庭の太陽光のほか、普及が遅れている地熱やバイオマスはFITでの買い取りを継続する。

   廃止対象は50~100キロワット超の新規の大規模事業者になる見込みで、相対取引で客を見つけるか卸電力市場で小売り事業者に売電することになるが、市場価格が急落して事業が成り立たなくなる事態に備え、事前に基準価格を定めておき、これを下回った場合には、差額を国が補?する方向で検討する。

基本的な課題をおろそかにしたまま...

   買い取り制度は、電力政策の難しさを思い知らせてくれる材料だ。急速な普及のための高価格が国民負担の増大を招いたことは説明したが、ここにきて問題視されているのがインフラ不足。九州で昨秋以降、九州電力が太陽光発電の受け入れを一時的に減らす「出力抑制」を実施したのが、その代表例だ。九州では大規模な太陽光発電設備が多くできたため、送電網の受け入れ容量を超え、大規模停電を引き起こしかねないためだ。東北地方では稼働していない原子力発電所用に送電線が確保されているため、再生エネ事業者が十分に使えないという問題もある。

   政府は再生エネを主力電源に位置付け、構成比を2030年度に22~24%に高める目標を掲げる。価格と普及のバランスを取るという方向性は当然として、電力を需要家まで確実に届けるインフラの整備という基本的な課題がおろそかにされていたことが分かったのだ。巨額の投資、つまり最終的に税金であれ電力料であれ、国民負担が必要になるだけに、政府はFIT見直しと共に、送電網を含めた明確な展望を示していく必要がある。

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