サッカーの「南米選手権(コパ・アメリカ)」が開幕し、日本代表の初戦も目前に迫った。アルゼンチン代表のFWリオネル・メッシ(31)、ウルグアイ代表のFWルイス・スアレス(32)をはじめ、ほぼフルメンバーが集まった南米の強豪に対し、日本は東京五輪世代(現22歳以下)中心のメンバーで挑む。
それでも今大会、「勝てる可能性は十分ある」「期待感はある」と口にするのは、かつて日本代表の10番を背負った岩本輝雄氏(47)と、フランス・ワールドカップ(W杯)代表で解説者の名良橋晃氏(47)。J-CASTニュースは両氏にインタビューし、コパ・アメリカの展望や期待の選手などを聞いた。
南米ほうが日本相手に「やりづらいのでは」
名良橋氏と岩本氏は2019年6月16日、FCバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)のプラチナパートナー「アリアンツ」が開催する、「アリアンツ・エクスプローラー・キャンプ - フットボール エディション(ジャパンセレクション)」にゲスト審査員として出席。終了後に個別インタビューに応じた。
ブラジルで15日(日本時間)に開幕したコパ・アメリカは、南米諸国を中心に12か国が参加。4チームずつ3組に分かれてグループリーグ(GL)を戦い、各組2位までと3位のうち成績上位2チームの計8チームで決勝トーナメント(T)を行って頂点を決める。
日本(FIFAランキング28位)は18日にGL初戦・チリ(同16位)、21日に第2戦・ウルグアイ(同8位)、25日に第3戦・エクアドル(同60位)と戦う。決勝T突破の見込みはあるのか。ロシア・ワールドカップ(W杯)の日本戦スコアを次々と的中させた「実績」がある岩本氏はこう話す。
「今回は逆に南米の国のほうが、日本相手にやりづらいのでは? 香川(真司)などA代表で長くプレーしていた選手ならある程度データがあると思いますが、今回のメンバーはあまり深く知られていないはず。チリなんかは初戦なのでやりづらいと思います。もちろん激しく来るでしょうけど、『前回王者』という緊張感もある。日本が勝てる可能性は十分ありますよ」(岩本氏)
「1対1勝負になれば前を向いた瞬間に振り切れると思う」
代表メンバー23人は、開幕時点で平均年齢22.3歳と若い。期待する選手を両氏に聞くと、この構成を反映するように五輪世代の名前が出る。
「久保(建英)選手もそうですが...、僕が期待するのはFW前田大然選手(21)。ものすごくスピードがありますね。南米のチームは結構マンツーマン気味にマークに来るので、1対1勝負になれば前を向いた瞬間に振り切れると思うんですよ。決定力が飛び抜けて高いわけではありませんが、今大会はチャンスがあると見ています」(岩本氏)
「前線の選手なら、大学生のFW上田綺世(あやせ)選手(20・法政大)です。サイドの選手では湘南ベルマーレのMF杉岡大暉選手(20)は入団してから注目しています。森保(一)監督が彼らをどうやって起用し、良さを引き出してくれるか、期待しています。南米には独特の雰囲気がありますが、ピッチ外の雰囲気には飲まれてほしくない。淡々とプレーできるようなメンタルの強さをチーム全体で出していってほしいですね」(名良橋氏)
「その点で森保監督が上手いと思うのは、GK川島永嗣(36)、FW岡崎慎司(33)、MF柴崎岳(27)らW杯を経験している選手を入れ、バランスを取っているところだと思います。若い選手は吸収することもあるでしょう。それに今はJリーグにも素晴らしい外国人選手が多いですし、若くして海外移籍する選手も少なくありません。『外国人慣れ』はしているでしょう。ですからメンタル的にはそこまで心配していません」(岩本氏)
久保に求める「得点に直結するプレー」とは
9日の親善試合・エルサルバドル戦でA代表デビューを果たしたMF久保建英(18)も招集された。主力として起用される可能性もある。その久保に期待する役割は、やはり「ゴールとアシスト」だ。
「得点に直結するプレー、一番は当然これだと思います。ポジショニングも良いし、相手のマークを外すのも上手いので、普通に通用すると思います。あとは彼がボールを持った時、あるいは持つ前の、周りの連携ですね。久保選手をフリーにするために誰かがフリーランするとか、彼にボールが入った時に横に誰かがつくとか。久保選手がボールを持って前を向けば、先ほども言ったように前田選手は速いので、スルーパスも来るでしょう。
ポジションがサイドハーフかトップ下か分かりませんが、久保選手がいることによって相手のボランチが引きつけられます。今度は(ボランチの)柴崎が空きますよ。すると柴崎は良いボールを出せますから、そこからも得点チャンスが作れます。非常に面白い連携が見られると思います」(岩本氏)
久保は「マドリードに行っても対応できるでしょう」
久保といえばレアル・マドリードへの完全移籍が14日に正式発表されたばかり。1年目はレアルBチームにあたるカスティージャ(リーグは3部相当)で過ごす。
スペインリーグで「成功」した日本人選手はごく少数に限られる。だが、久保には歴代選手と決定的に違う点がある。11~15年の約4年半をバルセロナで過ごしたことだ。両氏は言う。
「スペイン語が話せるのは大きいんじゃないですか。少年時代にスペインの文化や環境を経験しているのも大きいでしょう。そこで苦しむ選手は多いと聞きます」(名良橋氏)
「言葉が分かるから先日の(スペイン語を公用語とする)エルサルバドル戦で活躍したんじゃないかというのは僕の持論ですね。相手がディフェンスに来ても『右を切れ』『左を切れ』という指示の言葉が分かる。それでうまくかわせた、という面もあったんじゃないでしょうか。中田(英寿)もかつて言っていました。ペルージャ(イタリア)に行った時、『言葉ができれば絶対に活躍できる』と」(岩本氏)
加えて指摘したのは、久保の「適応力」だ。
「久保選手は『自分』をよく分かっていますよ。インタビューを見ても冷静で、大人ですよね。自分が何をすべきかが分かっているんじゃないですか。試合に出れば出るほど成長していく。怖いのはケガだけですね」(岩本氏)
「受け答えはバルサの時代に身に着けたんだと思います。今後いろんな目で見られるし、いろんな評価もされると思います。でもスペインを既に経験しているのでマドリードに行っても対応できるでしょう。
実際、守備を重視したFC東京のスタイルも、久保選手は自分なりに解釈しながら今季戦っていたと思います。それで健太さん(=長谷川健太監督)も起用していたでしょうし、今季は首位ですね。ですからチームの『色』を考えながらプレーできる選手なんじゃないかと思います。何が足りないか、何が必要か、自分で把握しながらプレーに反映させている。
ラウル(・ゴンサレス=レアルBの監督)がどういうスタイルを敷いているか、それに対して自分はどういうプレーが求められるか、考えて実行する力はズバ抜けていると思いますし、期待もしています。競争は激しいですし、外国人枠の制限もありますが、トップチームで見たいですよね」(名良橋氏)
「選手は日々危機感を持ちながらプレーしてほしい」
コパ・アメリカの日本は23人中13人が代表初招集というフレッシュな面々だ。代表に拘束力のある「国際Aマッチデー」ではない日程で開催されることも影響した。ただ今回のメンバー構成については両氏とも肯定的だ。
「まだA代表に呼ばれるほどの力はないかもしれないという選手でも、森保監督は育てるのが非常にうまいですし、日本サッカー協会(JFA)とも連動して招集していると思います。(国際Aマッチデーが終わり)J1リーグが再開する中で、主力選手が代表チームに行ってしまうのはクラブとしては複雑なんですよ。でも森保監督はじめ、代表スタッフがクラブ側とも上手くコミュニケーションを取っているから、Jからも選手を呼べたんでしょう」(岩本氏)
「期待感はあります。難しい絡みがあった中でのメンバー選出になりましたが、東京五輪世代が多い中、南米を舞台にどれだけ自分の力を出せるかは今後に向けても重要です。(東京五輪世代が出場した6月上旬~中旬の)トゥーロン国際大会組もいますし、選ばれた選手は日々危機感を持ちながらプレーしてほしい。コパ・アメリカがそうした感覚を持つことにつながればいいと思います」(名良橋氏)
東京五輪メンバーの有望候補は
最後に話題は東京五輪へ。上記のとおりコパ・アメリカは五輪世代が中心で、メンバー争いは熾烈。1年後に迫った五輪への展望を聞いた。
「今の若い選手は1~2か月でぐぐぐっとレベルアップします。いま現在期待されている選手もいますが、来年には他の選手が急成長してくる可能性も十分あります。森保監督は大学もJ2もひっきりなしにいろんな所に視察に行っていて、それだけに誰が選ばれるか分からない。その中でも名前をあげるとすれば、DF冨安健洋選手(20)ですね。センターバックが安定しないと上にはいけないと思います。A代表でも試合をやればやるほど伸びているじゃないですか。守備の要として期待しています」(岩本氏)
「高校生にも大学生にも、特に大学生は誰しもチャンスがあります。置かれた環境で与えられたことをプレーで表現してほしいですし、トゥーロン国際の代表で言えば、MF三苫薫選手(22・筑波大)、FW旗手怜央選手(21・順天堂大)、DF田中駿汰選手(22・大阪体育大)、GKオビ・パウエルオビンナ選手(21・流通経済大)。彼らには大学生全員の刺激になるようなプレーを期待したいです。『大学生にも五輪に出られるチャンスがある』ということを、今選ばれている選手が見せていってほしいですね」(名良橋氏)
(J-CASTニュース編集部 青木正典)