FCA騒動で浮き彫りになった、日産が「ルノーと組み続ける」ことの難しさ

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   いずれも大手自動車メーカーの仏ルノーと欧米FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の経営統合に向けた動きは、公になってから10日余りで白紙に戻った。

   実現すれば、ルノーと企業連合を組む日産自動車、三菱自動車も含めると世界最大の自動車グループが誕生するはずだったが、ルノーの筆頭株主であるフランス政府が統合条件に細かく口を出し、FCAの怒りを買ったのだ。この間、日産が置かれた複雑な立場も浮き彫りとなり、今後のルノーとの関係に影を落とした。

  • ますます難しい日産の立場
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自国有利にこだわるフランス、FCAお手上げ

   FCAがルノーに対して経営統合を提案したと発表したのは2019年5月27日。ただ欧州メディアによると、その4カ月前の1月、FCAのエルカン会長とルノーのスナール会長が両社の提携に向けた水面下の協議を始めていた。共同開発などについて話し合ううちに、徐々に経営統合を視野に入れるようになったという。イタリア紙によると、エルカン会長は統合提案を発表する前、フランスのルメール経済・財務相やマクロン大統領にも面会し、統合に向けた根回しをしていた。

   統合提案は、新たな持ち株会社をオランダに設立し、ルノーとFCAの既存株主が新会社の株式の50%ずつを保有するといった内容だった。だがこの枠組みでは、ルノー株式の15%を保有するフランス政府は、新会社に対する出資比率が半減してしまい、代わりにフィアット創業家が筆頭株主に就くことになる。FCAによる事実上のルノー買収とも受け取られかねず、FCA側はフランス政府に対して、新会社の所在地変更やフランス国内の雇用維持といった譲歩案を示したが、フランス側はさらに自国に有利な条件を要求した。

   ルノーは6月4日の取締役会で、FCAとの正式な統合交渉入りを決議する方向だった。しかし、この日に結論は出ず、5日に再び開いた取締役会では、フランス政府の代表者が「日産の支持を取り付けたい」と発言したため、採決は持ち越しに。この連絡を受けたFCAは即座に統合提案の撤回を決定。「フランスでの政治的な条件により、統合を実現できる状況にない」との声明を出して、フランス政府の介入を批判した。

それぞれに「メリット」ある統合だったが...

   FCAとルノーは、それぞれ経営統合へ前のめりになる事情があった。FCAは、経営破綻した米クライスラーをイタリアのフィアットが傘下に入れる形で発足した自動車メーカーで、傘下に「フィアット」「ジープ」「マセラティ」「アルファロメオ」などのブランドを擁する。2018年の年間販売台数は484万台で、ルノーの388万台を上回るが日産の565万台には及ばない。電動化や自動運転などの技術革新が進み、「100年に一度」の変革期を迎えている世界の自動車産業では、FCAクラスのメーカーが単独で技術開発を進めることは難しく、ルノーとの経営統合を通して、電動化と自動運転に関する技術力がある日産の技術を取り込もうとした模様だ。

   一方のルノーは、日産に対して以前から経営統合を求めていたが、両社が結んだ協定を盾に拒否されていた。そこにFCAから経営統合が持ちかけられ、実現すれば新会社の販売台数は日産を上回り、力関係はルノー側の優位に傾く。さらにフランス政府の持ち株比率も希薄化するため、経営の自主性も高まると目論んだ。

   ルノーとFCAの経営統合が白紙となり、今後はルノーと日産の関係に再び注目が集まる。今回の経営統合が発覚した直後、日産の西川広人社長は「アライアンスの幅が広がる」といった前向きな発言をしていた。しかし、ルノーの取締役会を目前に控えた6月3日、「統合が実現するなら、ルノーとの関係の在り方を見直す必要がある」との声明を出し、統合に向けた協議を牽制した。こうした日産の意向も、結果として統合を白紙に戻す要因の一つとなった。

フランス政府の「過剰介入」が改めて露呈

   一方で今回明らかになったのは、ルノーの経営に対するフランス政府の過剰なまでの介入姿勢だ。もともと国営企業だったルノーに対して、フランス政府は15%を出資。長期保有株主の議決権を2倍にするフランスの国内法「フロランジュ法」によって、議決権ベースでは3割弱を握っている。

   伝統的にフランスでは、政府が産業に対して影響力を及ぼして国内雇用や国益を守ろうとしてきた。しかも、富裕層に恩恵を与えていると受け止められているマクロン政権には労働者層の不満が高まっており、産業政策で国民の歓心を得ようとする傾向は強まっている。

   フランス政府はルノーに対しても、連合を組む日産との関係を「不可逆的なもの」にするよう要請しており、これに従ってルノーは日産に経営統合を求めてきた。日産社内には、ルノーとFCAの経営統合交渉が進めば、日産に対する圧力はしばらく落ち着くと期待する声もあったが、今後は再び日産に対する圧力をフランス政府主導で強めてくる可能性がある。今回の一連の動きによって、たとえ日産がルノーと何らかの合意に達しても、フランス政府に覆される可能性も再認識された。

   日産経営の今後の舵取りは一段と難しさを増しているようだ。

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