神戸市を走る北神急行が、「市営化」に向けた準備を進めている。神戸市と北神急行電鉄の親会社にあたる阪急阪神ホールディングス傘下の阪急電鉄では、遅くとも2020年10月までの実現を目指す。
民営化の流れが進む鉄道業界にあって、異例とも言える北神急行の公営化。公営化の背景と影響を探ってみた。
公営化の背景にある「高すぎる運賃」
北神急行は神戸市中央区の新神戸駅と同市北区の谷上駅の約7.5キロを結ぶ。1988年の開業当初から神戸市営地下鉄西神・山手線(新神戸駅~西神中央駅)と相互直通運転を実施。神戸市の中心地にあたる三宮駅~谷上駅間を11分で結ぶ。神戸市バスだと地下鉄三宮駅前~谷上駅の隣駅にあたる箕谷駅前まで約20分を要する。そのため、速達性で勝る北神急行への期待度は高かった。
しかし、開業当初から利用者は低迷し、同社の長期負債は400億円以上に及ぶ。利用客低迷の要因は700億円超の建設費を受けて設定された高額な運賃だ。1999年度に兵庫県と神戸市からの補助金により値下げされたが、新神戸駅~谷上駅間の運賃は1駅なのに360円、三宮駅~谷上駅間は540円にもなる。参考までに阪急電鉄の神戸三宮駅~梅田駅間の運賃は320円だ。
市は公営化に伴う一体運用により、三宮駅~谷上駅間の運賃は280円程度に引き下げるという。運賃の引き下げにより、1日あたり6000人の乗客増を見込んでいる。
周辺路線の影響はどの程度か?
沿線の周辺住民は北神急行の公営化を好意的に見ているようだ。普段は自動車利用の神戸電鉄沿線の住民に聞いたところ「運賃値下げはありがたい。久しぶりに北神急行を使ってみようかな」という答え。同時に「(値下げされたら)誰も神戸電鉄を利用しなくなるのでは」という心配の声も聞かれた。
神戸電鉄は神戸の中心地の新開地駅と北区・三田市を結び、新開地駅で阪急電車、阪神電車、山陽電車、谷上駅で北神急行と接続している。北神急行の運賃値下げにより、三宮・大阪方面に向かう際に新開地経由の利用客が北神急行経由にシフトする可能性は高い。また、自動車利用から鉄道利用に切り替える住民が増えることも考えられる。
神戸電鉄は粟生線(鈴蘭台駅~粟生駅)の赤字拡大に伴い、苦しい経営が続く。北神急行の公営化が神戸電鉄の経営に何かしらの影響を与えることは確実だ。北神急行や神戸市営地下鉄だけでなく神戸電鉄をはじめとする周辺路線の影響についても注視したい。
(フリーライター 新田浩之)