地方局との「棲み分け」も訴えるが
ネットの展開力の差が、NHKと民放、さらに民放内のキー局と地方局の「棲み分け」を崩す恐れもある、というのも、民放側が挙げる問題だ。例えば地方の放送局は概ね県単位に放送しているが、ネットは県境を自由に越える。NHKやキー局が、配信地域を制限せずに東京の番組を多く流せば、地方局の存在意義は一段と薄れかねない。人口減などもあり経営環境が厳しい地方局の在り方が大きな課題になる。
今回の常時同時配信解禁にあたって、一定の歯止め措置は取られた。まず、NHKは受信料収入の約4.5%分の値下げを2020年度までに段階的に行う(2018年11月発表)ことで、肥大化批判に配慮した。また、今回の改正法には、民放のネット業務に、NHKが技術面などで協力する努力義務も盛り込まれた。
このほかに、NHKのネット事業費用の上限規制もあるが、その行方は不透明だ。現状では、受信料収入の2.5%以内に制限しており、2019年度予算では169億円で、2.4%だが、法改正前ということで常時同時配信関連は含まれていない。常時同時配信には、初期投資に約50億円、運用に年間約50億円の費用が少なくともかかる見通しで、2020年度から本格運用されれば2.5%を超えるのは確実。「NHKのネット業務は放送の補完。だからこそ費用の上限を設けて(NHKは)守ってきた」(大久保民放連会長)と民放は指摘するが、NHKは新たな上限について方針を示していない。
とはいえ、こうした民放側の主張が、広く世論の支持を得ているとは言い難い側面もある。ネットフリックスなどの「黒船」も存在感を増す中、民放を含むテレビ報道の多様性の確保とNHKの「公共性」を巡る議論は、まだまだ足りないといえそうだ。