タワー、ピラミッドなど巨大組み体操の危険性が広まり、禁止する小中学校が増えている中、「人間起こし(トラストフォール)もやめて欲しい」との声が、保護者から上がっている。
組み体操の解説書では、タワー、ピラミッドとともに危険度が高い技とされ、事故例も複数報告されている。専門家は「安全面の検証が十分でない」と警鐘を鳴らす。
土台の上から後ろ向きに倒れる
小中学校の運動会での組み体操をめぐっては、骨折などの事故が相次ぎ、スポーツ庁は2016年3月、安全な状態でなければ実施しないよう各自治体に通知し、全国で組み体操指導の見直しが進んだ。
危険度が高いピラミッドとタワーを禁止にしたり段数制限を設けたりする小中学校が増え、大阪経済大の西山豊教授がまとめた「都道府県別組体操事故統計」によれば、17年度の全国の組み体操事故は4418件で、15年度の7702件から43%減少した。
だが、保護者からは「『人間起こし』も危険でやめて欲しい」との意見もあるようだ。東京都品川区の小学校に通う3年生の母親から、J-CASTニュースに情報提供があった。
人間起こしとは、数人の土台の上に1人が立ち、後ろ向けに倒れて土台が受け止めるという技だ。その後、振り子のように前後に揺れる動作を繰り返す。
組み体操の解説書『運動会企画 アクティブ・ラーニング発想を入れた面白カタログ事典』(学芸みらい社)では、人間起こしを「3段以上のタワー」「ピラミッド→全員崩し」「四角錐(すい)を作る立体ピラミッド」とともに難易度、危険度が高い技だと紹介する。
実際、兵庫県の公立小中学校では、18年度に人間起こしで8件事故が起き、17年度には重傷事故も2件報告されている。
前述の母親は、「組み体操をやめなくてもいいが、安全な技に切り替えてほしい」と要望。息子も同意見で「小さくて軽いと上をやらされるから、太って背を伸ばしたい」と話しているという。
自治体で対応分かれる
東京都教育委員会は16年度以降、ピラミッドとタワーを原則禁止しているが、人間起こしは各市区町村の教委の方針にゆだねている。
一部の小中学校で人間起こしをしている品川区の教委は6月5日、J-CASTニュースの取材に、実施の意義を「個人の受け止めだが」と前置きし、次のように話す。
「心理学の技法なので、相手を信頼したり集団の人間関係を作り上げたりするのに役立つ。人間関係を高めようとの狙いで取り組む学校が多いと思う」
練習、本番時は教員が補助に入るなど安全対策は徹底し、これまでけが人は報告されていないという。東京都教委への取材でも、担当者が把握する限り、けが人はおらず、「やめてほしい」といった要望も寄せられていないとした。
ただし、自治体によって対応は分かれる。東京都北区の小中学校では、16年度からタワーとピラミッドに加え、飛行機、トーテムポール、人間起こしなどの技を禁止した。北区教委は「安全面から、土台が立ったままの姿勢で、膝より上の部位で相手を支える技は禁止にした」と説明する。
教育現場の事故に詳しい名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)は取材に、「タワーやピラミッドの段数規制の抜け道として、人間起こしを実施しているという側面が強い。段数が低いから問題ないだろうとの考え方でやっているところが多いのでは」と推測。そのため、安全面の検証が十分でないと指摘する。
人間起こしの意義については、「事故のリスクを減らした形、例えば『扇』のように一段で横に広がりのある演技・技でも一体感を高めることはできる。リスクをかけて一体感を得ようという発想をやめたほうがいい」(内田氏)
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)
※本テーマについての情報提供は、https://secure.j-cast.com/form/post.htmlにお願いします。