職場でのハイヒール・パンプス強制について根本匠厚生労働相(68)が国会答弁した内容の解釈をめぐり、報道各社の論調が二分している。「強制を事実上容認した」とするものと、「強制がパワハラに当たり得る」とするものだ。インターネット上でも議論が分かれた。
根本氏の答弁の趣旨はどこにあったのか。J-CASTニュースが厚労省に見解を求めたところ、「ハイヒール強制を容認する発言ではありません」と回答した。
「厚労相、容認とも取れる発言」から「パンプス強制、パワハラに当たる場合も」まで
2019年6月5日の衆議院厚生労働委員会で、立憲民主党・尾辻かな子議員(44)が、女性に職場でハイヒールやパンプスの着用を義務付けることの是非について質問し、根本氏が答弁した。各社の報道を見てみる。
共同通信は見出しを「パンプス『業務で必要』と容認 厚労相発言、波紋呼びそう」とし、リード文で「『社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲かと思います』と述べた。事実上の容認とも取れる発言だ」と報道。見出しは6日までに「パンプス着用、社会通念で 厚労相、容認とも取れる発言」に変更され、若干トーンダウンしているが、「事実上の容認」との解釈は崩していない。
産経新聞も「ハイヒールとパンプス『業務で必要なら...』 女性に着用義務で厚労相」の見出しで、第1文から「『社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲かと思います』と述べ、事実上容認する考えを示した」と報道。朝日新聞も「職場でハイヒール強制『業務上必要なら』 厚労相が容認」の見出しを打ち、「『業務上必要かつ相当な範囲』であれば容認する姿勢を示した」としている。
論調が異なるのは、まず「根本厚労相『パンプス強制、パワハラに当たる場合も』」の見出しで報じた毎日新聞。リード文で「状況によってはパワーハラスメントに当たるとの見解を示した」としている。読売新聞も「職場でハイヒール強制『パワハラに該当しうる』」の見出しで「『必要なく着用を強制する場合にはパワハラに該当しうると考えている』との見解を示した」と報道。いずれも、ハイヒール・パンプス強制が「パワハラに当たる場合がある」という点を強調しており、「事実上の容認」とした前3社とは大きく異なっている。
「業務上必要かつ相当な範囲かと、この辺なんだろうと思います」
尾辻氏が質問した背景にあるのは、3日に厚労省・雇用機会均等課に出された要望書だ。職場で女性にハイヒール・パンプスの着用強制を禁止するよう厚労省から企業に通達してもらうため、グラビア女優で作家の石川優実さんがネット上で呼びかけた。ハイヒールの負担は、外反母趾や靴擦れ、腰痛など健康被害を生じさせている現実がある。活動は「#KuToo」運動として共感を集め、1万8000通を超える署名が寄せられた。
実際のところ根本氏はどのように答弁したのか、委員会映像を改めて確認してみる。尾辻氏は「今回このような要望書が出されたことに対する大臣の受け止め、さらに今後の対応についてもお聞きしたいと思います」と質問。根本氏の答弁はこうだった。
「ハイヒールやパンプスの着用については、それぞれの業務の中でそれぞれの対応がなされていると思いますが、たとえば労働安全衛生の観点からは腰痛や転倒事故につながらないよう、服装や靴に配慮することは重要であって、各事業場の実情や作業に応じた対応が講じられるべきと考えております。それぞれの職場がどういう状況にあるのかということで、一般的にはそれぞれの職場での判断だろうと思います」
「もう少し受け止めを聞きたい」という尾辻氏は、「ハイヒールやパンプスが義務付けられる必要はあると思われますか?」と論点をより具体的にして質問。そこで根本氏から出たのが次の答弁だ。
「女性にハイヒールやパンプスの着用を指示する、義務付ける、これは社会通念に照らして、業務上必要かつ相当な範囲かと、この辺なんだろうと思います。それぞれの業務の特性がありますから」
これに尾辻氏は「問題だという意識が大臣にあるのかないのか分かりません」とし、「もう一度、問題があると思っているか、ないと思っているか、そこだけでもお答えいただけますか?」と回答を二択に絞って質問。根本氏は同様の答弁を繰り返した。
「ハイヒールやパンプスの着用を強制する、指示する、これはいろんなケースがあると思いますが、社会通念に照らして、業務上必要かどうかということ、これは社会慣習に関わるものではないかなと思います。だからそういう動向は注視しながら、働きやすい職場づくりを推進していきたいと思います」
パワハラに当たるかどうか
また尾辻氏は「女性にのみ、このようにハイヒールやパンプスの着用を求めるというのは、ハラスメントにあたり得るものだと思います」として、「労働安全衛生、そしてハラスメント両面からの整備をしっかりしていただくようにお願いしたいと思います。大臣、これしっかり取り組んでいただきたいとお願いしたいのですが、いかがでしょう?」と質問。根本氏はハラスメントとの関わりについて次のように答弁した。
「職場において女性にハイヒールやパンプスの着用を指示すること、これについては今、パワハラという観点からのお話でした。当該指示が社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか、これがポイントだと思います。そこでパワハラに当たるかどうかということだろうと思います。一方で、たとえば足をケガした労働者に必要もなく着用を強制する場合などはパワハラに該当し得ると考えております。そこは職場でどういう状況の中でなされているのかというところの判断かなと思います」
一方、尾辻氏は女性の高階恵美子・厚労副大臣に対しても、ハイヒールやパンプスを女性が義務付けられることについて「感想としてどう思われているか」と質問している。高階氏は、
「そもそも職場でそういった義務付けをしているところがどの程度あるのか承知しておりませんが、一般的に言って、その業務の必要な範囲、そして安全性が確保される環境の中で労働者には仕事していただけるように、みんなで環境整備をしていくのが職場の考えだろうと思いますので、強制されるものではないのだろうと思います」
と職場での強制に否定的な見解を示していた。
「事実上容認」は「意図するところではありません」
こうした答弁がなされたのだが、先述のように報道各社の論調は割れた。厚労省は根本氏の答弁をどう捉えているか。同省雇用機会均等課の担当者は6日、J-CASTニュースの取材に、
「女性にハイヒールやパンプスの着用を強制することを容認する発言ではありません。パワハラに関しても答弁で触れていますが、そもそも容認という話ではありません」
と回答。「大臣は『社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲を超えているか、これがポイントだと思います』と答弁していました。ハイヒール・パンプスの強制を容認したということにはなりません」と続けた。
その上で、「事実上容認した」と一部で報道されていることについて見解を聞くと、
「意図するところではありません。容認はしていません」
と明確に否定した。
一方、「パワハラに当たる場合がある」との報じられ方については、
「(大臣が)そうした内容を述べたのは事実です。たとえば足にケガをした労働者に必要なくハイヒールやパンプスを着用しなさいと指示することは、パワハラに該当し得ると考えております」
と認めている。
では、「ケガをしていない労働者」にハイヒールやパンプスの着用を強制した場合はどうなのか。担当者は、
「個別の状況によりますが、社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲を超えていなければ、ハラスメントということにはならないでしょう」
と答えた。
同省に提出された「ハイヒール・パンプスの強制禁止」を求める要望書については「頂いたご意見は真摯に受け止めます」とするも、「法令や解釈を変えるという話にはなっていません。企業に通達を出すことも現時点では考えておりません。今回の動きを含めて状況は注視しなければいけませんが、すぐに何かをするわけではありません」と話す。その上で、
「ハイヒール・パンプスの強制を禁止することまでは現状考えておりません」
と話していた。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)