鉄人タイソンとモンスター井上の共通点とは...
突出した攻撃力を持つあまりに、防御技術に関してあまり語られないボクサーがいた。ヘビー級の元世界統一王者マイク・タイソンがそうだった。タイソンといえば、一撃必殺のパンチ力ばかりがメディアで取り上げられることが多かったが、実のところ、タイソンの数多くのKO劇は、井上同様に高い防御技術によってもたらされたものだった。
ファイタータイプのタイソンは接近戦を得意とし、相手の懐に潜り込んでボディーから顔面へ上下打ち分けるスタイルが定番だった。時にはいきなりの左フックから懐に飛び込むこともあったが、基本的には低い体勢で頭を振り、ジャブでけん制しながら接近戦に持ち込むというスタイルを取っていた。タイソンと井上の大きな違いは、その体格にある。180センチそこそこのタイソンは、2メートル近いボクサーが多いヘビー級の中では小柄で、リーチにおいても劣っていた。
体格的なハンデを補っていたのが、鉄壁のガードとスピードだ。タイソンの師匠、カス・ダマト氏はガードを徹底的に教え込んだという。ダマト氏は、どのような時でも常にグローブで顎を隠すように指示し、タイソンはグローブで顎をガードするためにグローブの親指部分を噛みながら練習をしていた。タイソンのスパーリング用のグローブの親指部分は、ちぎれそうになるくらいボロボロだった。
タイソンの晩年は、練習不足によるスピードの衰えが顕著で、パンチを浴びるシーンが多く見られたが、全盛期の試合ではまともに被弾することは非常に少なかった。ヘビー級において小柄なタイソンが、プロで21年間にわたり58戦もの試合をこなすことが出来たのは、驚異的な攻撃力のおかげではなく、ヘビー級史上まれに見る防御技術を持ち合わせていたからに他ならないだろう。
かつて、強すぎたタイソンに世界が熱狂した。強すぎる井上もまた、世界を熱狂させるだけの力がある。ボクシング界で最も権威があり、かつ歴史ある米専門誌「リング・マガジン」は、井上を全17階級のボクサーの中で4位に格付けした。日本ボクシングの歴史の中でこれほどまでに世界的評価を受けたボクサーはいないだろう。日本発の「モンスター」は、今や世界を席巻しつつある。
(J-CASTニュース編集部 木村直樹)