岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
雅子皇后がメラニア夫人に頬ずりした距離感

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大統領夫妻を打ち解けさせた人間力

   ユーモアもあふれていた。陛下が趣味で演奏されるビオラが大統領夫妻から贈られると、皇后さまが「陛下、今夜お弾きになられたら」と話し、陛下は笑顔を見せられていたという。

   また、トランプ氏が「陛下は相撲をよくご覧になるのですか」と尋ねると、陛下は「それほどしばしば、機会があるわけではありません。また、昨日、大統領がご覧になったほど近くでは見ません」と伝える場面もあった。

   メラニア夫人と皇后さまの別れの挨拶も、印象的だった。メラニア夫人が親しみの表情を浮かべ、出した握手の手を躊躇して引っ込めようとするやいなや、皇后さまが手を差し出し、握手を交わした。そしてどちらからともなく歩み寄り、顔を近づけ、頬ずりした。

   頬ずりの挨拶は、もともと欧州の習慣だ。アメリカでもとくに東海岸では、親しい間柄で頬ずりする人は増えてきたが、握手やハグが一般的だ。皇后さまは、メラニア夫人がスロベニア出身であることに配慮したのかもしれないが、頬ずりはおふたりの距離の近さを象徴するものだった。

   頬ずりまでするのは行き過ぎだ、と感じた日本人もいるようだが、形式ではなく、ごく自然にふたりの心が動いたことに、私は感銘を受けた。

   メラニア夫人は、旧ユーゴスラビアの内戦時に渡米。自分の国が分断される辛い経験をした。大統領夫人になってからは、スロベニア出身であることや、セクシーなモデルだったことで批判や中傷にさらされた。また、マスコミに夫の女性問題を騒ぎ立てられた。皇后さまも適応障害に苦しまれるなど、お互いの心の痛みに共感したのかもしれない。

   「With Trump's Visit to Japan, Empress Masako Finds a Spotlight(トランプ氏訪日で、皇后雅子さまはスポットライトを浴びる)という記事が、「ニューヨークタイムズ」紙(2019年5月27日付)に掲載された。

   皇室に後継者をもうけるという伝統的な役割に苦しんでいた皇后さまが、生き生きした笑顔で、語学と外交の能力を生かし、もてなされていた様子に、日本国民も喜んでいると紹介した。

   そしておそらく、それを誰よりも喜ばれているのは、陛下だろう。

   これだけの短時間に、大統領夫妻をリラックスさせ、打ち解けさせたのは、両陛下の人間力にほかならない。慎み深さに親しみを備えた新しい時代の皇室外交に、日本だけでなく、世界中が注目している。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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