非核化をめぐる動きが進まない北朝鮮で、少なくとも首都・平壌では富裕層が存在感を増しているようだ。2019年4月に金正恩・朝鮮労働党委員長の肝いりでリニューアルオープンしたデパートでは、北朝鮮の国産品はもちろん、経済制裁の網をかいくぐって輸入されたとみられる高級ブランド品が多く並ぶ。
北朝鮮メディアがその様子をアピールするのはもちろん、中国国営メディアも現地の様子を「最近の絶え間ない北朝鮮の経済発展の縮図」などと伝えている。
「ソニー」「フィリップス」「オメガ」「コーチ」「シャネル」...
その豪華ぶりが報じられているのは、大聖(テソン)百貨店。朝鮮総連の機関紙、朝鮮新報が5月17日に掲載した現地ルポによると、1986年に開業し、2006年から約3年かけて改装。故・金日成主席の誕生日で、北朝鮮が「太陽節」として祝日に定める19年4月15日にリニューアルオープンした。その1週間前の4月8日には、正恩氏が現地視察したことを労働新聞などの国営メディアが報道している。正恩氏は
「首都市民に良質のさまざまな食品と衣服、履物、家庭用品と日用雑貨、学用品と文化用品をより多く与えられるようになった」
などと述べ、
「商品の陳列方法と形式が多様で見た感じが良く、サービスの環境と規模、商品の質と品種においても高い水準であることが分かると評価」
したという。
北朝鮮がアピールする「商品の質と品種」が垣間見えるのが、朝鮮新報のルポに掲載された多数の写真だ。家電売り場にはタブレット端末やPC、液晶テレビが並べられ、「ソニー」「フィリップス」の文字が確認できる。それ以外にも、貴金属、時計売り場には「オメガ」、女性向けブランド売り場には「コーチ」、化粧品売り場には「シャネル」、スポーツ用品売り場には「アディダス」「ナイキ」、といったブランドが並ぶ。記事では、
「ディスプレイもさまざまで購買意欲を掻き立てる売り場づくりとなっている。一流ブランドに関しては海外から専門家を招いてディスプレイ方法を研究したという」
と伝えている。なお、これらのブランド品が本物かどうかは、写真からは必ずしも明らかではない。北朝鮮は06年の核実験強行後、国連安保理決議でぜいたく品の禁輸措置を課されている。仮にブランド品が本物だった場合、制裁の実効性が問われることになりそうだ。
新興富裕層「金主(トンジュ)」の増加を反映?
このデパートの豪華ぶりについて、
「服、家電、化粧品、時計、ジュエリーなどブランド品を販売する店で、商品は全て米ドル建てで、価格は数百~数千ドル。それでも客足は絶えることがない」
と伝えたのが、5月14日付の新華社通信の記事だ。記事では、地元住民の
「こんな高級店は数年前には想像できなかった。平壌市民の購買力の強さを見れば、経済は徐々に改善し、生活水準も上がっていることが分かるはずだ」(地元住民)
という声を伝えながら、
「百貨店はリニューアルオープン以降、客には好評だ。最近の絶え間ない北朝鮮の経済発展の縮図だ」
などと分析している。
韓国や日本の北朝鮮研究者の間では、15年頃から「金主(トンジュ)」と呼ばれる新興富裕層の存在がクローズアップされている。この「金主」は、貿易や不動産の取引で収入を得ていると考えられている。この「金主」が増えたことが今回のリニューアルオープンにつながった可能性もありそうだ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)