ヘイトスピーチやデモ現場で人々がもみ合う動画が詰まった、その名も「朝鮮DVD」なるものが、東京都新宿区や町田市で配られている。配られた時期は2019年4月から5月下旬にかけてとみられる。
J-CASTニュースでは5月下旬、DVD配布をツイッター上で指摘した、藤原たけき・新宿区議会議員に取材し、中身を見せてもらった。編集部が、投かんされたという町田市の人物からもDVDを借りたところ、新宿のものと同じ映像が確認できた。
約4時間にわたるデモやヘイトスピーチ動画
配られているDVDの表面には「朝鮮DVD」という文字があしらわれている。パソコンでプロパティを表示すると、「DVD (2019-04-17)」と日付らしきものが表示された。動画の尺は約4時間で、ネット上の複数の動画をつなぎ合わせたような内容。「ニコニコ動画」からの映像も含まれているようで、右から左へコメントも流れていた。
再生すると「朝鮮半島の本当の歴史」とタイトルが表示され、1880年代に発刊された、アメリカ人牧師ウィリアム・グリフィスによる『隠者の国・朝鮮』という書物が紹介される。
その後は、差別発言が繰り返されるデモやヘイトスピーチの様子が収まっている。動画には「こういう事実を流すのはいいな」「犯罪は祖国に戻ってやれ」と差別発言を支持したり、「正論過ぎww」「クッソワロタwww」とおかしく取り上げたりするコメントが流れていた。ほかに、「差別デモやめろ」と抗議する人々の映像や、デモ現場で参加者がもみ合いになるものもあった。デモ動画の後には、ヘイトスピーチの問題を扱った報道や、在日コリアンに言及したニュース番組の映像も流れていた。
「かなり枚数がまかれているよう」
投かんされた人物からDVDを借りたという藤原区議に話を聞いた。藤原区議は5月24日、自身のツイッターで「朝鮮DVD」に触れ、「内容はネット上にある #ヘイトスピーチ 動画の詰め合わせで、見るに耐えないモノ」と問題視していた。
実態調査をしている藤原区議によると、新宿区内のある集合住宅では一棟に集中して投かんされていたという。藤原区議は、その意図はわからないとしつつ、
「ネットにあまり親しんでない人に物理的なDVDを配布して、見させてどうにかしたかったのか...」
「愉快なものではないし、ヘイトをまき散らすもの。私は見たら嫌悪感を持つ。ヘイト言動を拡散する意味では、ヘイトを助長するものではある」
と語る。
今後のDVDの扱いについては「かなり枚数がまかれているようで、ほかからお借りできないか話をしている。実態を把握して法務省や東京都に何らかの対応をするときに使いたい」と話していた。
法律や条例には抵触するのか
同様に「朝鮮DVD」を投函されたという町田市の20代男性にも取材。男性によると、4月26日ごろポストに入っていたという。封筒には入っていなかった。
「中身を見てみたいと思っていたのですが、ウイルスに感染するのも困るので見ていませんでした」
「朝鮮DVD」のようなものは、なんらかの法律や条例に抵触するのだろうか。新宿区の場合、ヘイトスピーチなどへの実効性のある条例はまだない。
「実効性のある条例を、以前から質問などを通じて訴えている。新宿区としても多文化共生は強く言っている。実のあるものにしていくために対応しなければ」(藤原区議)
東京都では、ヘイトスピーチの規制などを盛り込んだ人権尊重条例(東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例)が、4月1日から施行されている。ただ、条例を所管する都総務局人権部の担当者に取材したところ、
「例えば、『処罰をしてください』ということになった場合は、私どもの条例の範囲外。罰則を科す規定がないので、処罰はできない」
との回答を得られた。
なお、東京法務局人権擁護部に5月30日に取材したところ、事実関係は確認中とのことだった。
【31日追記】31日、東京法務局人権擁護部はJ-CASTニュースに対し、「この件については承知していない。今後、東京都とも連携しながら、情報収集に努めていきたい」と回答した。
(J-CASTニュース編集部 田中美知生)