1998年、和歌山市園部で行われた夏祭りで、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒になり、4人が死亡した、いわゆる「和歌山カレー事件」。殺人罪などで死刑が確定した林真須美死刑囚は現在、大阪拘置所にいる。弁護団は再審を求めていたが2017年3月に棄却され、大阪高裁に即時抗告中だ。
林死刑囚から届いた手紙をツイッター上で紹介するアカウント「和歌山カレー事件 長男」(@wakayamacurry)が、ネット上では話題になっている。J-CASTニュース編集部は19年5月26日、和歌山へ出向き、アカウントを運用している男性に話を聞いた。
「風化させちゃいけない」
待ち合わせ場所に現れた男性。身長は、筆者より約10センチ高い180台前半だ。ツイッターのプロフィール画像は幼少期の写真だが、その頃の面影はなく、スラっとしている。目鼻立ちはよく、渋谷や原宿を歩いていそうな出で立ちだ。事件当時は小学5年生。現在は31歳という男性は、和歌山市内で運送業をしている。
現在、林死刑囚との面会や手紙のやり取りは、家族や弁護士しかできない。取材では、林死刑囚から届いたという手紙やはがきも複数通、見せてもらった。「月に一回、(手紙は)必ず来ますね」。
これまで父親がメインで取材を受けていたが、体力や記憶力の面から、代わりに男性が受けるように。関西のテレビ番組に出たのをきっかけに、相次いでオファーが来るようになった。
ドキュメンタリーを撮りに来たカメラマンが半年、密着取材することに。毎週顔を合わせて、話せる仲になった。18年夏、オウム真理教の元死刑囚らの刑が執行され、男性はカメラマンに、こんな質問を投げかけた。
「もし僕の母親が(死刑)執行されたとき、カメラマンさんはマンションの下でたむろをしたり、脚立で座り込んだりするんですか」
カメラマンは「申し訳ないですけども会社の指示があったらします」と答えたが、あわせて「そういう時は何か発信できるツールを持っておいた方がいい」とアドバイスした。「ずっと頭に残っていて、そのこともあってツイッターを始めたのが理由の一つです」。
テレビに出た時は、「被害者面するな」という声もあった。男性は、「本当の被害者は、遺族や亡くなった方。それは至極当然の話で、はがゆい思いをずっとしていたんですけど、何か伝えたいという思いもあった」と葛藤を明かしたうえで「(事件を)風化させちゃいけないのが一番」と強調する。
「風化して処刑されてしまえば、遺族の方も満足はしないだろうし、加害者家族とされる僕や父親も納得はできないということで、メディアとは一定の距離を保ちながら20年過ごしてきました。事件の概要や母親の文書、家族のやり取りっていうんですかね。そういう人となりも伝えられればと。下手な発言は絶対にできないので、言葉を選びながら自分なりに発信していこうかなと思いました」