多摩消費生活センター見舞った「ゆるマクロビ」騒動 専門家「公衆衛生上問題視されても仕方のない」

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   東京都の多摩消費生活センターが、2019年5月29・30日に開催を予定していた「マクロビオティック(マクロビ)」という食事法に関する食育講座。これが、急遽中止される騒動が起きていた。

   同講座は告知の中で、卵や乳製品などの動物性食品が「体に負担をかける」と読み取れる表現があったなどとして、インターネット上で物議を醸していた。管理栄養士の成田崇信氏は「乳製品をとることに悪いイメージを与える食育講座というのは公衆衛生上問題視されても仕方のないものでしょう」との見解を示す。

  • 東京都の多摩消費生活センターが開催予定だった食育講座の告知チラシの一部。すでに中止が決定している(編集部で一部加工)
    東京都の多摩消費生活センターが開催予定だった食育講座の告知チラシの一部。すでに中止が決定している(編集部で一部加工)
  • 東京都の多摩消費生活センターが開催予定だった食育講座の告知チラシの一部。すでに中止が決定している(編集部で一部加工)

「卵や乳製品、白砂糖を使わない」「カラダに負担の少ないお菓子の実習」

   多摩消費生活センターは「『ゆるマクロビ』でココロとカラダの調子を整えよう!」と題する食育講座を5月29・30日の両日に開催すると、3月に告知。「新年度は環境が変わり、ストレスが発生しやすい時期でもあります。この機会にマクロビを学び、ココロとカラダに優しいお菓子を作ってみましょう」と呼びかけていた。

   マクロビ普及団体「日本CI協会」公式サイトによると、マクロビとは「健康維持、体質改善、治病、長寿を目的とする穀菜食を中心とした食事法」のこと。食事の仕方として、「身土不二の理念から国内産を優先します。(地産地消)」「一物全体を基本に皮をむかずに芯や根も工夫して食べる」「牛、馬、豚、鶏のような動物性食品は禁止されている」「白砂糖、グラニュー糖などの精製糖は使用しません」など多くの基準を掲げている。

   都の食育講座で物議を醸したのは、「卵や乳製品、白砂糖を使わない」「カラダに負担の少ないお菓子の実習があります」としている部分。卵、乳製品(牛乳、チーズなど)、白砂糖のイラストに大きなバツをつけたイラストも描かれている。こうした内容が、卵や乳製品をとることが「負担」なのか、ネガティブなイメージを抱かせるのではないかとして批判の声があがった。

   事態が動いたのは4月26日。多摩消費生活センターが同講座についての「中止のお知らせ」を公式サイトで発表した。そこでは、

「地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座でしたが、その趣旨が十分に伝わらないご案内となっておりました」

としており、「既に申し込まれた方、また、ご検討中の皆様方には、深くお詫び申し上げます」と謝罪。同様の文章はツイッターアカウント「東京都消費生活行政」でも投稿した。

   だが、これが更なる疑問を招くことになった。講座の「目的」として記載された「地産地消の推進」「食品ロスの削減」が、冒頭にあげた告知の中には一切書かれていなかったためだ。ツイッターでは、

「おっしゃるような目的は先の案内からは何も読み取れませんでした」
「おかしいです。宣伝には今回の謝罪にある講座目的について一文字も書いてないですよね?」
「『卵・乳製品・白砂糖を使わないと体に負担が少ない=使うと体に負担が大きい』を問題視されている」
「卵等動物タンパクと白砂糖は体に悪いとするマクロビ宣伝しかしてなかったではないか」

といった声が多数あがることになった。

多摩消費生活センター「認識不足でした」

   唐突に思える中止理由についてJ-CASTニュースが5月7日、多摩消費生活センターに説明を求めると、担当者は次のように話した。

「一般的に浸透している食事法と思っており、批判を招くことになるとは予想できていませんでした。認識不足でした」

一方で、

「マクロビ一辺倒の食事を勧めようとしたわけではありません。4~5月は環境が変わって食生活も変わりやすく、体調不良になることもあると思います。その時、選択肢のひとつとして動物性食品を使わない食事方法もあると示すため、『緩い』の意味で『ゆるマクロビ』としました」

と話す。毎日マクロビ的な食生活をすることを推奨したわけではないという。また、中止告知に対する指摘については、

「当センターの食育講座は常に『地産地消の推進』『食品ロスの削減』の2つをテーマに掲げており、過去にさまざまな切り口で講座を開いてきました。告知ではお伝えしていないことがあったものの、実際の講座の中では触れてきました。地産地消や食品ロスといった言葉を告知の段階であまり前面に出しますと、硬い内容だと受け取られかねず、多くの方々の目に留まらないのではないかと懸念していたためです。

しかし、今回は前面に出さないことが行き過ぎてしまいました。本来はこうした趣旨であることを明示するべきであり、こちらの手落ちであったと反省しております」

と説明。今後については「本来の目的を明確に示しながら、再び企画することも検討したい」と話していた。

管理栄養士はどう見る?

   栄養の専門家は今回の一件を、どう捉えるのか。管理栄養士の成田崇信氏はJ-CASTニュースの取材に、

「あまり厳格でないいわゆる『ゆるマクロビ』であれば、肉食過多で食物繊維の摂取が少ない現代的な食生活に採り入れるのは有用という意見はわからなくもありません。有用な部分は多くの人が不足しがちな食物繊維をとれることが期待できるということですね」

と前置きしながらも、次のように懸念が大きいことを示す。

「栄養面で問題になるのは、成長期の子どもや骨粗鬆症のリスクの高い女性が、乳製品の摂取を減らしてしまうおそれがあることです。日本人の平均的な乳製品摂取量は、学校で給食などがない人では推奨される量に達していない状態です。乳製品をとらないで十分なカルシウムを摂ろうとするのはプロでないとなかなか大変です」

その上で、今回中止された都の食育講座の問題点をこう述べる。

「乳製品をとることに悪いイメージを与える食育講座というのは公衆衛生上問題視されても仕方のないものでしょう。今回の講座で紹介するレシピが不明ですが、一般にマクロビオティックの食事は食塩過多になりやすいものが多いので、その面でも心配があります。一番の懸念は、食育講座で教えてもらったことでマクロビオティックに興味を持つだろう事です。ここを入り口に、マクロビオティックの食事を始める人がいるかもしれません」

また、成田氏はマクロビそのものについて

「日本人では食塩過多による高血圧が問題になっていますが、マクロビオティックでは自然な塩であれば、控える必要がないと主張されることもあり、栄養学に基づいた食事法ではありません。科学的根拠やエビデンスとは外れた食事法といえます」

との認識を示す。また、マクロビは動物性食品を禁じていることから、動物性食品でなければ必要な摂取量を満たせない栄養素として「ビタミンB12欠乏も心配されます」という。

   J-CASTニュースは、(1)都がマクロビに関する食育講座を中止したことをどう考えるか(2)マクロビについて科学的根拠や栄養面で懐疑的な声があることについてどう考えるか――について、普及団体である日本CI協会に取材を申し込んだが、「コメントできる立場にないので控えたい」とのことだった。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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