盤石にもみえるトヨタだが、決算発表後の記者会見に登壇した豊田章男社長の顔に笑顔はなく、口をついたのはむしろ将来に対する危機感だった。
「技術革新でクルマの概念が変われば、我々のビジネスモデルも変えなければならない」「トヨタを(移動サービスを提供する)モビリティカンパニーにフルモデルチェンジすることが私の使命だ」。
中国経済「失速」の中でも堅調に数字伸ばす
2019年5月8日に発表した同社の2019年3月期連結決算は、売上高が前期比2.9%増の30兆2256億円、営業利益も同2.8%増の2兆4675億円。売上高が初めて30兆円の大台を突破した。グループの世界販売台数(ダイハツ、日野自動車含む)も前期比1.6%増の1060万台と、好調ぶりを示す。
販売拡大の最大の要因は中国だ。中国経済の失速を受け、市場全体の販売台数は2018年に前年比2.8%減と28年ぶりに前年割れとなる中、トヨタの販売台数は前期比14%増の148万台超と他メーカーを寄せ付けない独り勝ち状態。ハイブリッド車(HV)が好調だったほか、高級車レクサスが関税引き下げの追い風を受けた。販売台数は前年比微減だった米国でも、販売奨励金の抑制で収益を改善し好決算につなげた。
にもかかわらず、豊田社長はなぜ危機感をあらわにしたのか。
自動車業界には今、「CASE」と呼ばれる次世代車をめぐる研究開発の波が押し寄せる。「?=Connected(つながる)」「A=Autonomous(自動運転)」「S=Shared(共有)」「E=Electric(電動化)」をつなげた造語だ。各メーカーはCASE対応のため、開発費を積み増し、他社より技術開発で先んじようと躍起になっている。
研究開発費のうち4割が「CASE」に
トヨタは、2019年3月期に計上した研究開発費1兆488億円のうち4割弱をCASE対応に投じた。2020年3月期はさらに500億円増の1兆1000億円を見込む。さらに、「近いうちに5割程度まで高める」(小林耕士副社長)というから、開発費は拡大の一途だ。
一方で、研究開発費は「出せば出すほど利益を圧縮する」(小林副社長)ものだ。それでも、「開発投資は増やしても勝てるかわからないが、減らした瞬間に負けてしまう」(自動車メーカー幹部)からやらざるを得ない。
電気自動車(EV)や自動運転の実用化により、グーグルやアップルに代表される大手IT企業など異業種参入が容易になった。もはや自動車業界は自動車メーカーだけのものではなく、むしろライバルは自動車メーカー以外にある。その現実と、ゴールが見えない開発競争がトヨタを不安の渦に引き込む。足元の業績が活況でもその憂鬱は消えそうもない。