大相撲夏場所がいよいよ佳境に入ってきた。夏場所は横綱白鵬(34)=宮城野=が休場し、注目の大関貴景勝(22)=千賀ノ浦=が膝を負傷して途中休場するなど、少しさびしい感じはあるものの、土俵上では連日のように熱戦が繰り広げられている。2019年5月26日の千秋楽には、トランプ米大統領の観戦が予定されており、力士もより一層、力が入りそうだ。
大相撲ファンならずとも、大相撲をテレビなどで観戦したことのある方ならば、一度は疑問に感じたことがあるかもしれない。そう、力士が締め込むまわしの前に付いているヒラヒラしたやつだ。暖簾のようで暖簾でない。何本かのひも状のものがぶら下がっているあれだ。J-CAST編集部は、ヒラヒラしているあのひも状の「装飾」について調べてみた。
「下がり」の本来の目的は...
力士のまわしの前方に垂れている複数のひもは、一般に「さがり」と呼ばれるものである。その昔の江戸時代、力士は化粧まわしをつけて相撲を行っていたとされる。化粧まわしとは、関取が土俵入りする際に付ける大きなエプロン状の前垂れだ。かつて、力士たちはこの化粧まわしをつけて一番に臨んだという。力士にとってみれば相撲が取りにくいことこの上なかったろう。実際、取組中にまわしを取りに行く際に化粧まわしが邪魔になったため、現行のまわしに落ち着いたという。「さがり」は化粧まわしの名残と言われている。
江戸時代の化粧まわし、現在の「さがり」しかり、その目的はどこにあるのか。お分かりの方もいるかもしれないが、ずばり局部を隠すためのものだといわれている。取組中、まわしがズレた際に、観客に局部をさらさないための「防具」としての役割もあったようだ。前垂れの化粧まわしならば完全防備になるかもしれないが、現在の暖簾のようなひも状のものでは少し心もとない気が...。
「さがり」は、力士がまわしを締め込む際に、まわしとまわしの間にしっかり挟み込まれるので、歩いているだけで落ちるものではない。激しい一番となれば、外れてしまうこともあるが、土俵に落ちた「さがり」を行事がサッと拾い上げる場面を見たことがあるファンも多いだろう。「さがり」が外れたからといって力士にペナルティーが科されることはなく、取組中に付け直すということもしない。
「さがり」は、力士のまわしが大きく左右にズレたり、外れかけない限り、その役目を全うすることはないだろうか。それならば「必要ないのでは?」と思うファンもいるかもしれない。実際に本場所の取組時に起こった「珍事」のケースで、「さがり」はどのような役目を果たしたのだろうか。
「見えてる、見えてる」と審判員が大慌て
その「珍事」が起こったのは今から19年前の2000年夏場所のこと。三段目の取組の最中に一方の力士のまわしがほどけ局部が露わに。この不測の事態に土俵を囲む審判員らは大慌て。「見えてる、見えてる」と土俵を指さし、当該力士に向けて絶叫した。記者は当時、大相撲を取材しており、当該力士を取材していた。
この力士の「証言」によると、場所前に体重が減少したことで、まわしの長さが気になり、かなりの長さをカットしたという。だが、場所に入ると体重が元に戻ったため、まわしの長さがギリギリになってしまった。本来ならば余裕を持ってきつく結ぶべきところを、長さが足りないあまりに結び目もギリギリに。そのまわしを強い力で振り回された。このような不運が重なってのアクシデントだったが、幸いにもテレビ画面に局部が映し出される事態は逃れた。
本場所で取組中にこのようなアクシデントが起こったのは1917年夏場所以来、実に83年ぶりのことだった。まわしが外れて局部が露わになった場合、当該力士の反則負けとなる。正式な決まり手ではないが、このようなケースの反則負けは「不浄(ふじょう)負け」と呼ばれている。人前で恥をかき、その上、反則負けとなる。踏んだり蹴ったりの「珍事」だが、この2つの「珍事」は、偶然にも夏場所の5月13日に起こっている。記者が確認した限り、残念ながら19年前の「珍事」では「もろ出し」となったため、「さがり」が活躍することはなかった。
大相撲ファンでも、おそらく「さがり」の垂れているひも状の数を数えたことのある方はそう多くはないだろう。本数に決まりはないが、数字を割ることが出来る偶数は、土俵を「割る」につながるとして、角界ではゲンを担いで奇数で統一されている。本数は、力士の腹回りにも関係し、関取衆においてスリムな力士ならば13本ほど。アンコ型の大型力士の場合、15本から17本が一般的だという。ちなみに小錦は21本だったそうだ。江戸時代の化粧まわしの名残とされる力士の「さがり」。21世紀になっても、この数十本のひもが力士の最後の砦となっている。