「見えてる、見えてる」と審判員が大慌て
その「珍事」が起こったのは今から19年前の2000年夏場所のこと。三段目の取組の最中に一方の力士のまわしがほどけ局部が露わに。この不測の事態に土俵を囲む審判員らは大慌て。「見えてる、見えてる」と土俵を指さし、当該力士に向けて絶叫した。記者は当時、大相撲を取材しており、当該力士を取材していた。
この力士の「証言」によると、場所前に体重が減少したことで、まわしの長さが気になり、かなりの長さをカットしたという。だが、場所に入ると体重が元に戻ったため、まわしの長さがギリギリになってしまった。本来ならば余裕を持ってきつく結ぶべきところを、長さが足りないあまりに結び目もギリギリに。そのまわしを強い力で振り回された。このような不運が重なってのアクシデントだったが、幸いにもテレビ画面に局部が映し出される事態は逃れた。
本場所で取組中にこのようなアクシデントが起こったのは1917年夏場所以来、実に83年ぶりのことだった。まわしが外れて局部が露わになった場合、当該力士の反則負けとなる。正式な決まり手ではないが、このようなケースの反則負けは「不浄(ふじょう)負け」と呼ばれている。人前で恥をかき、その上、反則負けとなる。踏んだり蹴ったりの「珍事」だが、この2つの「珍事」は、偶然にも夏場所の5月13日に起こっている。記者が確認した限り、残念ながら19年前の「珍事」では「もろ出し」となったため、「さがり」が活躍することはなかった。
大相撲ファンでも、おそらく「さがり」の垂れているひも状の数を数えたことのある方はそう多くはないだろう。本数に決まりはないが、数字を割ることが出来る偶数は、土俵を「割る」につながるとして、角界ではゲンを担いで奇数で統一されている。本数は、力士の腹回りにも関係し、関取衆においてスリムな力士ならば13本ほど。アンコ型の大型力士の場合、15本から17本が一般的だという。ちなみに小錦は21本だったそうだ。江戸時代の化粧まわしの名残とされる力士の「さがり」。21世紀になっても、この数十本のひもが力士の最後の砦となっている。