韓国大法院(最高裁)が日本企業に対して元徴用工らへの賠償を命じる判決を下した問題で、日本政府は2019年5月20日、日韓請求権協定に基づいて、第三国を交えた仲裁委員会の設置を韓国政府に要請した。これまで日本政府は、協定に基づく「政府間協議」を求めていたが、韓国側が応じないため、委員会の設置要請に踏み切った。
委員会の設置要請に踏み切るのは、1965年の日韓請求権協定締結から初めて。元徴用工をめぐる問題は新たな段階に入ったと言えるが、そのタイミングについて、韓国メディアでは「珍説」がささやかれている。
「令和初日」に資産売却着手を発表したから?
日本政府は19年1月に協議を要請したが、韓国政府が具体的な対応を行わないまま、原告側による日本企業の資産差し押さえの動きが進行。5月1日には、差し押さえた資産売却の手続きを始めると原告側が発表し、日本企業にとっての「実害」が現実味を帯びていた。
今回の委員会の設置要請にあたり、日本外務省は
「韓国政府は、仲裁に応じる協定上の義務を負っており、日本政府として、仲裁に応じるよう強く求めます」
とする声明を出した。だが、仲裁委員会も韓国側の同意がなければ開くことができない。韓国外務省は「慎重に検討する」との声明を出したが、設置に同意するかは不透明だ。
この設置要請のタイミングをめぐり、韓国では日本側の「意図」を疑う声もある。中央日報は、新天皇が即位し「令和初日」にあたる5月1日に資産売却の手続き開始が発表されたことについて、日本政府内で、「原告側がわざわざ祭日を選んだのではないか」といった不満の声が出たと報じている。今回の措置については、
「日本政府は、事前に韓国側に何の説明や通知もしなかった」
と指摘。日本政府が措置に踏み切った5月20日は、駐日韓国大使として5月9日に着任したばかりの南官杓(ナム・グァンピョ)氏が、皇居・宮殿信任状奉呈式に臨んだ日でもある。そのため、韓国側からは「意図が疑わしい」という声が上がった、というのだ。いわば、日本側が5月20日を選んだのは5月1日の意趣返しだと疑っているわけだ。
韓国側の単なる邪推?
ただ、今回の措置のきっかけになったとみられているのは、李洛淵(イ・ナギョン)首相が5月15日、「政府の対応策には限界がある」と発言したことだ。「5月1日」問題も、少なくとも日本のメディアではそれほど注目された様子がない。韓国側の推測は単なる邪推に過ぎない可能性が高い。
河野太郎外相は5月21日の記者会見で、
「(韓国側が政府間協議に応じるまでには)多少時間がかかるだろうということは覚悟していたし、しばらく、4か月以上待っていた」
矢先に、韓国側の「取りまとめ役」のはずの李首相から「限界」発言が出たため、
「それを聞くと、我が方としてもこれ以上待つわけにもいかない」
として、委員会設置手続きの要請に踏み切ったと説明している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)