東京・池袋で車が暴走し、母子2人が死亡した事故で、運転していた旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長(87)が入院先から退院し、警察による任意の事情聴取を受けた。
元高級官僚という経歴を念頭に「上級国民だから逮捕されないのか」といった疑問の声が以前からネット上であがっていたが、今回の各メディア報道で、警視庁は退院後も逮捕せずに在宅のまま捜査を続ける方針と伝えられたことを受け、疑問の声が再燃している。そうした中、元裁判官の八代英輝弁護士は「退院されて事情聴取を受けた時点で、逮捕するのが普通だと思いますね」と、情報番組で指摘した。
「違和感を持っている人が多くてですね」
2019年4月19日の事故で胸の骨を折るなどして入院していた飯塚元院長は5月18日、退院して警視庁目白署に出頭し、任意で事情聴取を受けた。両手に杖を持ってマスクにサングラス姿で署に出入りする際の様子は、テレビ各局が映像つきで伝えた。逃亡や証拠隠滅の恐れがないとして、警視庁は今後も逮捕はせずに在宅で捜査を続ける方針(毎日新聞19日ウェブ版など)などと複数のメディアが報じている。
週明けの20日放送の「ひるおび!」(TBS系)も、今回の退院・任意聴取を取り上げた。八代弁護士は、「退院後も逮捕なし」の現状への違和感を口にした。前半は、
「この事件って信号無視で、横断歩道を渡っていた何の過失もない2名が死亡している事故なんです。それで、実質否認事件なんですね」
と指摘した。調べに対し当人が、事故を起こしたことは認める一方で、ブレーキが効かなかった、アクセルが戻らなかったと主張していると報じられており、八代弁護士は「これは恐らく踏み間違えという認定がされると思いますけど」とみており、これが「実質否認」という表現につながったようだ。ブレーキなどの機能については、「乗用車機能検査で異常なし」(7日、共同通信)という趣旨の複数の報道が出ている。
八代弁護士は続けて、
「否認事件であって、今までは胸骨骨折で入院中だったので身柄拘束を見送るという運用は分かるんですけれど、おととい(18日)退院されて事情聴取を受けた時点で、通常だったら逮捕状(を取って)、逮捕するのが普通だと思いますね。それをなぜ今回見送ったのかについて、違和感を持っている人が多くてですね」
と指摘。その上で、
「逮捕状の請求の運用というのを警視庁が恣意的に行っているんじゃないか、という疑惑を持たれると良くないと思うんですね。逃亡の恐れがないとか、じゃあ今まで逃亡の恐れがなさそうな案件で逮捕してこなかったのかというと、決してそうではないので」
と、「違和感」をもたれる背景を解説し、
「この容疑者に関してだけ、なぜそのような運用をするのか、もう少し詳しく説明して頂きたいな、と思いますね」
と要望した。
情報番組では「なぜ逮捕しないのか?」の字幕も
また、同じ20日の放送で「とくダネ!」(フジテレビ系)も退院・任意捜査の話題を伝えた。「なぜ逮捕しないのか?」という字幕も登場した。弁護士見解としては、元東京地検特捜部で、元衆院議員の若狭勝氏の話がパネルで紹介された。若狭弁護士は
「(編注:これまでの捜査で)証拠がかなり揃ってきているので、逮捕の必要がない。逮捕しても勾留請求が(裁判所に)認められず、釈放されると考え、逮捕しなかった可能性も」
などと指摘しつつ、今後の展開として、
「仮に『自分は悪くない』『一切過失もない』と言い張り、完全否定することがあれば逮捕の可能性は出てくる」
との見立てを披露していた。
退院前のメディアによる解説でも、逮捕をしない理由として、当人が入院中であることを挙げる内容が少なくなかった。フジテレビ系ニュースサイト「FNN PRIME」の4月26日配信記事「池袋暴走 母子死亡事故...なぜ逮捕されない? 『上級国民』説の真相(以下略)」(めざましテレビの内容紹介)では、フジテレビ社会部デスクが、
「逮捕されないのではなく、逮捕できない状況なんです...。今回の事故によって胸を骨折していて恐らく重傷でしょう。そうするとその治療に専念しなければいけないわけですから警察としても逮捕はできない」
と放送当時の現状を解説し、その後の展開については、
「これぐらいの大事故を起こした容疑者、人物は逮捕されるケースが圧倒的に多いので、(飯塚元院長が)退院後に逮捕される可能性は十分にあると思います」
と予想していた。