衆院解散は「総理の専権事項」だとして、記者団の質問に「ゼロ回答」を続けてきた菅義偉官房長官が、異例の発言だ。野党による内閣不信任決議案提出が解散総選挙の「大義」になるか問う質問に「それは当然、なるんじゃないですか?」と応じ、野党に対するけん制だと受け止められている。
野党にとって不信任案は有力なカードのひとつだが、候補者調整などの準備が整わないうちに解散を誘発するとなれば逆効果。こういったことを背景に、4月の消費増税をめぐる「観測気球」が上がった時とは一転、解散への警戒ムードが広がりつつある。
採決待たずに解散したのが「神の国解散」「郵政解散」
菅氏は2019年5月17日午後の会見で、記者から
「通常国会の終わりに野党から内閣不信任決議案が提出されるのが慣例になっているともいわれているが、それを受けて時の政権が国民に信を問うため、衆院解散・総選挙を行うのは大義になるかどうか」
と問われ、
「それは当然、なるんじゃないですか?」
と答えた。これまで野党は、慣例的に通常国会の末に内閣不信任案が提出され、多くの場合は否決されてきた。ただ、不信任案提出後、採決を待たずに解散に踏み切った例もある。最近では、00年の「神の国解散」、05年の「郵政解散」などだ。これにともなって行われた00年の選挙では、与党3党は議席を減らしたものの、絶対安定多数を確保。05年は与党が圧勝した。
立憲民主党の福山哲郎幹事長は、菅氏の発言を受け、記者団に対して
「内閣不信任案で解散をするということは、『今の政権には選挙をする大義が全くない』ということを自ら認めていることだ」
などと指摘。不信任案を提出する可能性については
「あらゆる選択肢があると思うので、今言うことが適切だとは思わない」 と慎重姿勢を示した。
4月の萩生田発言には「解散をするなら堂々と」
ただ、自民党の萩生田光一幹事長代行が4月18日に、仮に消費増税を見送ることになった場合は「信を問うということになる」と解散を示唆した際、福山氏は
「我々としては、解散をするなら堂々と受けて立ち、野党で協力して安倍政権を倒す絶好の機会を得ることができると考えている」
と述べていた。1か月の間で慎重姿勢に転じたとの見方も出そうだ。
枝野幸男代表は19年5月17日に行われた全国幹事長会議で、ダブル選の可能性が「かなり出てきたと思っている」として、野党の勢力を最大化するために
「立憲民主党としての筋をブレさせない範囲のなかで最大限の努力をしていかなければならない状況になっている」
と発言。「野合」との批判を受けない範囲で、衆院小選挙区で野党候補者の一本化を加速させたい考えを示した。
国民・玉木代表は「野党の不戦敗」懸念
一貫して厳しい現状認識なのが国民民主党の玉木雄一郎代表だ。4月の萩生田氏の発言の際、
「政権はバラバラな野党の現状を見透かしているのだ。速やかに現状を打破しないと野党は大敗する」
とツイート。月刊誌「ザ・ファクタ」19年6月号(5月20日発行)のインタビューでは、「解散は望むところだが、時間は限られている」とした上で、立憲・国民が擁立したとしても、野党が候補者を擁立できない小選挙区が「数十」出ると指摘。
「このままだと衆院小選挙区で野党の不戦敗が続出する恐れもある」
と悲観的だ。
今国会の会期末は6月26日。会期延長の有無を含めて、終盤の「解散風」の動向が注目される。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)