「初版5000部、実売1000部も行きませんでした」――。幻冬舎の見城徹社長のツイッターでの発言をめぐり、多くの作家が不快感をあらわにしている。
同社と対立する作家の書籍の「実売数」を明かす発言をしたことに、「『この人の本は売れませんよ』と触れ回るなんて作家に最低限のリスペクトがあるとできないはず」とひんしゅくを買っている。
騒動の発端は『日本国紀』批判
騒動のきっかけは、作家の津原泰水(つはらやすみ)氏が2019年5月13日、百田尚樹氏の著書『日本国紀』(幻冬舎)を批判したため、自著が出せなくなったとツイッターで主張したためだ。
津原氏は幻冬舎から文庫本『ヒッキーヒッキーシェイク』の出版を予定していたが、『日本国紀』がネットの情報を無断引用していると指摘したところ、出版が急遽取りやめになったとしている。
一方、幻冬舎は16日のJ-CASTニュースの取材に、『日本国紀』を批判するのは止めるよう依頼したのは事実としつつ、「『お互いの出版信条の整合性がとれないなら、出版を中止して、袂を分かとう』と津原氏から申し出がありました」と反論する。
その後、津原氏は幻冬舎の担当者とのメールのやりとりをツイッターで公開し、同社の反論は事実無根だと訴えた。担当者からのメールには「『ヒッキーヒッキーシェイク』を幻冬舎文庫に入れさせていただくことについて、諦めざるを得ないと思いました」などと書かれている。
メール全文は「何らかの形で明らかになるでしょう」
津原氏のメール公開などを受け、見城氏自身がツイッターで「こちらからは文庫化停止は一度も申し上げておりません」と改めて反論し、「メールのやり取りの全文も何らかの形で明らかになるでしょう」と"予告"した。
さらに、津原氏が幻冬舎から出版した過去の著書を挙げ、自身は反対していたとも明かしている。
「津原泰水さんの幻冬舎での1冊目。僕は出版を躊躇いましたが担当者の熱い想いに負けてOKを出しました。初版5000部、実売1000部も行きませんでした。2冊目が今回の本(編注:『ヒッキーヒッキーシェイク』の単行本)で僕や営業局の反対を押し切ってまたもや担当者が頑張りました。実売1800でしたが、担当者の心意気に賭けて文庫化も決断しました」
「実売数晒し」で多くの作家蜂起
見城氏の「実売晒し」ツイートを受け、多くの作家らが反発している。
作家の高橋源一郎氏は、「見城さん、出版社のトップとして、これはないよ。(中略)『個人情報』を晒して『この人の本は売れませんよ』と触れ回るなんて作家に最低限のリスペクトがあるとできないはずだが」
映画史研究家で、著書を多数持つ春日太一氏は、実倍数を公表することで「腰が引ける出版社や書店が出てくる可能性がある」として、 「どれだけ争っているとしても、『著者が他社でも仕事できにくくするよう率先して仕掛ける』ようなことはしない。それが出版社としての矜持だと思っていました。が、見城徹は明らかにその一線を越えたように私には映ります。芸能界や映画界のように出版界はなってほしくない。危惧します」
作家の岡田育氏は「『実売数の大きな作家は業界全体に大きな発言権を持つ ≠ 実売数が少ない作家には発言権がない』『本を売るのは出版社の仕事なので出した本が売れない責任は主に出版社にある』今日は皆さんにこれだけ憶えて帰ってもらいたいと思います」
そのほか、平野啓一郎氏や藤井太洋氏、深緑野分氏、福田和代氏、葉真中顕氏など多数の作家らが異議を唱えている。
(17日13時追記)見城氏は17日12時50分に、ツイッターを更新。先のツイートを削除し、お詫びした。
「編集担当者がどれだけの情熱で会社を説得し、出版に漕ぎ着けているかということをわかっていただきたく実売部数をツイートしましたが、本来書くべきことではなかったと反省しています。そのツイートは削除いたしました。申し訳ありませんでした」