シンガポールの国会で2019年5月8日、いわゆる「フェイクニュース」対策法が賛成多数で可決・成立した。政府が虚偽だと判断したネット上の情報について訂正や削除を求めることができ、意図をもって虚偽情報を流した企業や団体には最大で100万シンガポールドル(8072万円)の罰金、個人にも最長で禁錮10年か10万シンガポールドル(807万円)の厳しい罰を課す内容だ。
政府は「意見」は処罰の規制の対象にならないと説明しているが、言論統制の厳しさで知られるお国柄なだけに、「虚偽情報」の拡大解釈をめぐる懸念も出ている。
意見やパロディーは規制の対象にならないと説明するが...
可決されたのは、「オンラインの虚偽情報・情報操作防止法」。地元紙のストレーツ・タイムスによると、
「不平等さが増していることに政府は責めを負うべきだ」
「シンガポールの機関や政策はエリート主義的なことが多い」
といった意見に類するものやパロディーは規制の対象にならないが、
「政府が近隣国に宣戦布告した」
「X銀行が200億シンガポールドルの損失を出した」
といった書き込みが事実でないと分かれば、規制の対象になる。
ネット上で問題視された書き込みが「虚偽」かどうかを閣僚が判断し、公益に与える影響の大きさを評価。政府として対応を行う必要があると判断された場合は、フェイスブックなどの事業者に虚偽情報の訂正や削除を命じることができる。虚偽情報を拡散しているサイトやアカウントをブロックするように命じることもできる。これに従わなければ、最大で100万シンガポールドルの罰金刑だ。さらに、「悪意を持って」虚偽情報を拡散した人には、禁錮5年か5万シンガポールドル(403万円)、またはその両方が課せられる。ボットを使って虚偽情報の拡散を加速させた人への罰はさらに重く、禁錮10年か10万シンガポールドルの罰金、またはその両方だ。
法案では、「公益」の例として、公衆衛生、財政、公共の安全、社会の平穏を守ること、近隣国との友好関係などを挙げている。
政府が「認めない」見解の弾圧に使われる懸念も
この法律では、発信者が国外にいても刑罰の対象となる。そのため、法案が提出された直後から、シンガポールに拠点を置く外国メディアへの影響を懸念する声もあがっていた。法案の可決を受け、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、法案が「シンガポール当局が認めないネット上の見解を弾圧するための絶対的権力を与えてしまう」と非難する声明を発表。
「『真(true)』や『偽(false)』、最も懸念される『ミスリーディング』といった言葉の明確な定義すらされていない」
などとして、拡大解釈の可能性を指摘している。国会で反対票を投じた野党の労働者党も、同様の批判を展開した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)