安倍晋三首相は2019年5月6日夜、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と「条件をつけずに向き合わなければならない」などと述べ、無条件で会談に臨む考えを示した。これまで安倍氏は、会談を行う以上は「拉致問題の解決に資する会談としなければならない」などとして、解決に結びつかなければ会談に応じない考えを示していたが、これを転換した。
そんな中でも北朝鮮メディアは日本批判を続ける。日本としてはハードルを大幅に下げた形だが、北朝鮮側が会談に応じるかは不透明だ。
2018年秋には「あらゆるチャンスを逃さないとの決意」
安倍氏は米国のトランプ大統領と北朝鮮問題を中心に約40分間にわたって電話会談。その後、報道陣に対して
「拉致問題を解決するために、あらゆるチャンスを逃さない。私自身が金正恩委員長と向き合わなければならない。条件をつけずに向き合わなければならない、という考えであります」
と述べた。
過去の安倍氏の国会答弁を見ると、
「北朝鮮とは、最後は、私自身が金正恩国務委員長と向き合い、日朝首脳会談を行わなければなりません。そして、これを行う以上は、拉致問題の解決に資する会談としなければならないと決意しております」(18年7月6日、参院本会議)
「6月の歴史的な米朝首脳会談によって、北朝鮮をめぐる情勢は大きく動き出しています。次は、私自身が金正恩委員長と向き合わなければなりません。最重要課題である拉致問題について、御家族も御高齢となる中、一日も早い解決に向け、あらゆるチャンスを逃さないとの決意で臨みます」(18年10月29日、衆院本会議)
といった具合だ。18年夏の段階では前提条件を掲げていたが、18年秋にはそれが消え、今回の発言では無条件で会談に臨むことを明言した、という変化が読み取れる。
菅義偉官房長官は5月7日午前の記者会見で、安倍氏の発言について
「安倍総理は北朝鮮の核・ミサイル、そして何よりも最重要な拉致問題の解決に向けて相互不信の殻を破り、次は自分自身が金正恩委員長と直接向き合うとの決意を従来から述べていた。条件を付けずに会談の実現を目指すとは、そのことをより明確な形で述べたものだ」
などと説明。これが「方針転換」にあたるかどうかは明言を避けた。
仮に「報告書」を出してきたとしたら...
一方、朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は5月7日付の紙面に掲載した論説記事で、日本がイージス艦に搭載する迎撃ミサイル「SM3ブロック1B」56発の購入を決めたことを「朝鮮半島と地域に宿る平和な雰囲気を故意に破壊する行為」だと非難。その上で、日本は「ありもしない『ミサイルの脅威』」を主張しており、
「日本の下心は明らかだ。朝鮮半島情勢を複雑にして漁夫の利を得ようというのだ」
などと独自の主張を展開した。
仮に首脳会談が実現した場合、北朝鮮側は「過去の清算」という名の経済協力や、在日米軍の縮小や撤退を求めてくる可能性がある。こういった中で拉致問題についてどういった成果が得られるかは不透明だ。
北朝鮮側は、拉致被害者や行方不明者を含む「すべての日本人」の再調査を約束した14年の「ストックホルム合意」を反故にしたまま、「拉致問題は解決済み」だと主張し続けている。仮に首脳会談で「再調査」の報告書を出してきたとしても、その対応に苦慮することになるおそれがある。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)