岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
大統領は安倍首相に「近寄るな」と叫んだのか

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   ホワイトハウス前のレッドカーペットでの写真撮影中、トランプ大統領が安倍首相に対して、「Stop. (これ以上、近づくな)」と言う場面が屈辱的だ、と一部韓国メディアの報道をきっかけに、韓国と日本のネット上で話題になっている。

   2019年4月30日午前9時現在も、「近寄る安倍首相に「ストップ」と叫んだトランプ大統領...「レッドカーペット上の屈辱」」と題する記事が、日本のYahoo!ニュースでランキング入りしている。

  • 首相官邸公式サイト(http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201904/26usa.html)より。編集部で一部編集
    首相官邸公式サイト(http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201904/26usa.html)より。編集部で一部編集
  • 首相官邸公式サイト(http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201904/26usa.html)より。編集部で一部編集

韓国メディアが強調する「Stop」

   複数の韓国メディアのこうした一連の報道を見ながら、私は疑問を感じていた。米国内でも、そのことはほとんど話題になっていない。

   日本国内では、韓国メディアの一連の報道に対して、疑問を抱く人はいるものの、トランプ氏の無礼を非難したり、韓米首脳の「2分会談よりはましだ」と皮肉ったり、「安倍氏はここまでバカにされている」と嘆く人も多い。

   これが事実なら、「トランプ氏が世界へ見せつけた強烈な政治的メッセージだ」と危惧する声もある。

   安倍首相は4月26日(現地時間)から2日間、トランプ氏との首脳会談のため、首都ワシントンを訪れた。会談後、ホワイトハウスで夫妻同伴の夕食会が予定され、その前に行われた記念撮影の場でのことだ。

   冒頭で触れた記事は、韓国最大の新聞社、「中央日報」の日本語版だ。記事のなかで、韓国メディアが流したニュース映像に触れ、写真撮影時にカメラマンの「もう少し近づいて」という要請に従って、安倍首相夫妻がトランプ氏に近寄った。

   すると、トランプ氏が安倍氏を「Stop.」と一喝したとしている。韓国のテレビ局では、トランプ氏の顔をアップにして、「Stop.」という吹き出しを付けて流しているものもある。

   そのため、安倍氏はレッドカーペットにぎりぎり片足だけ乗せ、またぐ形で撮影されることになったという。また今回、トランプ氏は、2019年4月10日に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領がホワイトハウスを訪問した時と違って、スーツのボタンもかけていないと指摘している。

日の丸を意識した?大統領夫妻

   複数の映像を何度か確認したが、トランプ氏が「Stop.」と言っているようには見えない。「More closer.」という、おそらく英語のネイティブではない男性カメラマンらしき声は聞こえる。が、安倍氏が近寄った時にトランプ氏がささやく声は、聞き取れない。おそらく、その場にいたカメラマンにも、聞き取れなかったのではないだろうか。ただ、口の動きから「Stop.」ではなく、「Ya.(うん)」「Yup.(そう)」などと軽くつぶやいたように見える。その場の和やかな雰囲気からも、そう捉えるのが自然だ。

   韓国メディアは、文大統領の時には、レッドカーペットにトランプ氏と並んで撮影されたとし、安倍首相との"待遇の違い"を強調している。

   しかし実際には、トランプ氏と並ぶ文氏が、レッドカーペットからはみ出している写真もある。トランプ氏と並んだ他国の首脳が、同じようにはみ出している写真もあれば、トランプ氏自身がはみ出しているものもあり、今回、安倍氏が冷遇を受けたとはいえないだろう。

   トランプ氏は赤いネクタイと白いYシャツ、メラニア夫人は白いドレスに赤い靴。日の丸カラーを思わせる出で立ちで、気配りを感じさせる。

   トランプ氏は初めからレッドカーペットの真ん中に立って安倍首相夫妻を出迎え、車を降りたふたりがその脇に控えめに立つ形となった。

   一部韓国メディアの見方とはやや違うが、米国内でも「首相夫妻に対して失礼だ」との声はある。

   来賓を迎えながら自分だけレッドカーペットの真ん中に立ち、一番先にホワイトハウスに入っていく姿に、「相変わらず自分中心で、雑で心配りがない」と眉をしかめる人もいれば、「レッドカーペットの立ち位置なんて、トランプにとってはどうでもいいことさ」とさらりと流す人もいる。

   よくも悪くも、「これぞトランプ」なのである。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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