「いつかはマラソンで男子を育ててみたい」
有森さんの五輪2大会連続のメダル獲得が、小出氏を指導者として、もうひとつ上のステージに押し上げたに違いない。00年シドニー五輪を取材した際の出来事で、今でもよく覚えているのが、小出氏と高橋さんがシドニーの空港に降り立った時のことだ。詰めかけた50人以上もの報道陣を前にして小出氏は言った。「Qちゃんはここで全部話しますよ。何でも聞いてね」。
笑顔で報道陣の質問に受け答えをする高橋さんと、それを傍らでニコニコ見守る小出氏。残り2人の女子マラソン代表チームの対応とは、何もかもが違って見えた。高橋さん以外の代表選手、監督らは空港に降り立つと、一様に緊張感をみなぎらせ、悲壮感すら漂っていた。老獪にメディアを操り、選手の背中を強く押す小出氏とは実に対照的な光景だった。これが五輪を戦ってきた指導者と、そうでない者の違いなのだろうか。この時、記者は改めて小出氏の指導者としての質の高さを感じた。
高橋さんが金メダルを獲得したのち、小出監督はこう話していた。「俺も色々と有森で経験してきたからね。バルセロナとアトランタがなかったらシドニーの金メダルはなかったかもしれないね。Qちゃんの金メダルは有森のおかげかな」。
女子長距離界で数々の世界的名選手を育て上げた小出氏は、生前にこんなことも言っていた。「いつかはマラソンで男子を育ててみたい」。ついにこの夢を叶えることなく、女子マラソンの名伯楽が逝った。
(J-CASTニュース編集部 木村直樹)