エリート、世代の違い、悲しい現実...攻撃の条件がそろった
ネットカルチャーに詳しいITジャーナリスト・井上トシユキ氏は23日、J-CASTニュースの取材に、「上級国民」への怒りが噴出する理由について次のように見解を示す。
「『権力者』に対して嫌味や皮肉を言うことで、溜飲を下げたいのだと思います。鬱屈した気持ちがあって、嫌味のひとつも言っておきたいのではないでしょうか。本気で言っているというより、ネットの流れに乗って憂さ晴らしに利用しているような形です。
いくら憲法上、平等が保障されていると言っても、現実はそうでもないことが多くて、ネットで言う『上級国民』には『何か楽に暮らしているな』という負の印象が持たれやすいです。飯塚氏をめぐっては『元高級官僚』『重役を歴任』といった肩書がクローズアップされています。人物像について限られた情報しかないため、それだけを材料にして皮肉を言っている状態です。もっと情報が出てくると議論の内容も変わってくるかもしれませんが、今の少ない情報では嫌味を言いやすいのでしょう」
ネットスラングとしての「上級国民」は、2015年の東京五輪エンブレム盗作疑惑問題を機に広く使われるようになったとされる。五輪組織委員会は当時、疑惑が浮上した佐野研二郎氏デザインのエンブレムを取り下げる決定をしたが、会見で組織委側は「佐野さんの説明は専門家には分かり合えるが、一般国民には残念ながら分かりにくい」などと発言。世間から「上から目線だ」と批判を浴び、「一般国民」との対比で、主にエリート中のエリートを揶揄する「上級国民」の語が広がった。
井上氏は「あの騒動で、グループとしての『上級国民』が生まれ、『上級国民』同士で仕事や利権を回しているという印象が残りました」とした上で、飯塚氏についてこう分析する。
「池袋の事故は久々にネットユーザーが『上級国民』と呼べるネタだったことに加え、飯塚氏が80代という高齢であるため世代間格差問題もあわさって怒りが増幅したと見られます。さらに若い母子の命が失われるという悲しみに包まれました。エリート、世代の違い、悲しい現実――ネットで言う『一般国民』の複雑な感情のやり場として、『上級国民』というのはピッタリの攻撃対象であり、格好の『ネタ』だったんです。条件的にそろってしまったんですね」