異例の枠組みに、業界の注目が集まっている。トヨタ、ソフトバンクが手を組んで立ち上げた新企業に、競合のホンダなどが出資、にわかに「日本連合」の感を見せ始めたのだ。
いったい何が起きているのか。そこには、海外プラットフォームになんとか対抗したい、各社の思惑がある。
MaaS時代に向け「連携した方が得策」
新たにホンダと日野自動車から出資を受け入れることになったのは、トヨタ自動車がソフトバンクとの共同出資会社「モネ・テクノロジーズ」(東京都)。さらに、鉄道や飲料など幅広い業種の88社による「コンソーシアム(共同事業体)」を組織することも発表され、2018年9月の設立から半年でグループや業種の枠を超えた一大連合に発展した。
実現した背景には、移動サービス事業「MaaS(マース)」を巡る各社の強い危機感がある。車の「所有」から「利用」への急速なシフトが進む中、トヨタをはじめ自動車メーカーは近年、自動車をITでつないで移動に関するサービスを提供する「MaaS」を今後の主戦場に位置づけている。ライバル同士で組むことにより、次世代の移動サービスで主導権を握りたい考えだ。
意識するのは、自動車運転技術を開発する米グーグルや、ライドシェア(相乗り)で先行するウーバー・テクノロージーズなど海外のプラットフォーマーだ。トヨタがホンダと手を組んだのも、巨大プラットフォーマーに対抗するには「車づくりでは競争してもサービス分野では国内勢で連携した方が得策」との考えがある。
トヨタがホンダと組むことにより、自動運転やライドシェアのサービス開発に向けて、より大量の走行データを共有できるというメリットも生まれる。モネの事業説明会にサプライズで登壇したトヨタの豊田章男社長は「自動車業界がオープンな形で第一歩を踏み出せた」と評価した。
日産にも呼びかけ、スズキ・マツダの参加も
ホンダと日野はそれぞれ約2億5000万円を出資し、出資後の株式保有比率は約10%。出資後、ソフトバンクとトヨタの持ち分比率はそれぞれ、約40.2%と約39.8%となる。モネは今後、日産自動車にも参加を呼び掛けるほか、トヨタと協力関係にあるスズキやマツダなども合流するとみられる。モネの宮川潤一社長(ソフトバンク副社長)は「日本発のプラットフォーマーにこだわりたい。日本の基幹産業である自動車産業を海外企業にコントロールされたくない」と語った。
さらに、コンソーシアムの設立により、参画企業に自動運転車の運用を管理する基盤システムを広く活用してもらい、よりサービスの幅を広げる方針だ。モネは各企業から事業計画を募集し、2020年度に実用化を目指す。
例えばJR東日本は、鉄道駅から目的地への移動車を自動で手配するサービスを検討。コカ・コーラボトラーズジャパンは、自動運転技術を使って希望に合わせて呼び出せる移動型自動販売機のサービスを想定しているという。
トヨタとソフトバンクの連携が発表されると、一部メディアは「呉越同舟」のたとえでこれを伝えた。今回、乗客はさらに増えて、「日の丸」を掲げての合従策へと発展したと言えよう。世代移動サービスで手を組んだ日本連合。プラットフォーマーになれるか、真価が今後、問われることになる。