住宅設備大手のLIXILグループが揺れている。
「プロ経営者」と「創業家」によるCEOの地位をめぐる争いだ。異例の「抗争」の背景には何があるのか。登場人物を読み解くと、そこにはLIXILという企業特有の事情も透けて見える。
「イタリアで朝食を食べていたら、突然電話が来て」
戦いの口火を切ったのは、前社長兼最高経営責任者(CEO)の瀬戸欣哉取締役だ。2019年4月5日に緊急記者会見し、6月予定の定時株主総会に同氏を含む8人の取締役候補を株主提案し、CEOへの復帰を目指すと発表した。前CEOが自ら株主提案を行い、CEO復帰を目指すのは異例だ。瀬戸氏は2018年11月、現会長兼CEOの潮田洋一郎氏にCEO退任を迫られ、創業家出身の潮田氏がCEOに返り咲いた経緯がある。
LIXILをめぐっては、海外の機関投資家が昨秋のトップ人事が不透明だとして潮田氏らの解任を求めており、新旧CEOを軸とする社内対立が鮮明になっている。
瀬戸氏は住友商事出身で、工具のインターネット通販「MonotaRO(モノタロウ)」での経営手腕をLIXILの潮田取締役会議長(当時)に買われ、2016年にLIXIL社長に就任した。しかし、その後は潮田氏と経営戦略をめぐって対立し、指名委員会委員だった潮田氏は2018年11月、瀬戸氏にCEO退任を求め、自ら会長兼CEOに就任した。瀬戸氏は2019年4月に社長も退任し、6月の株主総会では取締役からも退く見通しとなっていた。
瀬戸氏は5日、東京都内で記者会見し、「昨年10月27日、イタリアで朝食を食べていたら、潮田氏から突然電話が来て、まさに晴天の霹靂だった。指名委員会が全員、(瀬戸氏にCEOを)辞めてほしいという話だった」と、退任に至った経緯を説明。「機関決定なので(CEO退任は)変えられないという話だったが、従業員や投資家から、なんで簡単に突然辞めたのかと責められた。辞めるべきでなかったと自覚した時、決断を早まったと後悔した」と述べ、自ら取締役として続投し、CEO復帰を目指す理由を述べた。
旧トステム、旧INAX両派の思惑
LIXILはINAX、トステム、サンウエーブ工業、新日軽、東洋エクステリアの5社が2011年に統合して誕生した。こうした「生い立ち」から、2大勢力である旧トステム、旧INAXの対立の構図が今回の事態に投影している。
瀬戸氏は6月予定の定時株主総会で現職2人の取締役と共同で社外4人を含む8人の取締役候補を株主として提案する。この社内取締役候補には旧INAX創業家で現取締役の伊奈啓一郎氏、旧INAX社長で現取締役の川本隆一氏が含まれている。対する潮田氏はトステム創業家出身。旧INAX系の取締役が「プロ経営者」の瀬戸氏を押し立てて潮田氏と対峙する構図だ。
昨秋のLIXILのトップ交代は、指名委員会の委員だった潮田氏自ら、瀬戸氏に代わってCEOに就任するとともに、指名委員会委員長で社外取締役だった山梨広一氏が社長兼COO(最高執行責任者)に就くという、指名委員会の中立性に疑念を抱かせる展開だっただけに、「お手盛り人事」との批判も浴びた。
このため海外の機関投資家は「手続きが不透明」などと批判。臨時株主総会を開き、潮田氏と山梨氏を解任するよう求め、LIXILは5月に臨時株主総会を開くことになった。潮田氏と山梨氏の取締役解任について、瀬戸氏は「株主として賛成する。(否決は)考えにくい」と述べており、潮田氏を臨時株主総会で下野させたうえ、6月の定時株主総会で自身は取締役として続投する考えだ。
しかし、瀬戸氏の思惑通りに2つの株主総会が進むとは限らない。シンガポール在住の潮田氏は5日の瀬戸氏の記者会見について沈黙を守ったが、今後は現職CEOとして反撃に出ることも予想される。LIXILの株主は外国人投資家が全体の4割と多く、株主総会をめぐって新旧CEOの両陣営が幅広い株主に支持を求める委任状争奪戦(プロキシーファイト)にエスカレートする可能性は否定できない。